魔王を倒すのは二の次です

柳佐 翡翠

第1話


 けたたましい機械音が耳元で鳴り響き、少女は意識が覚醒した。


「ん……」


 なにか夢でも見たような気がするが、寝起きでうまく頭が働かず、今すぐに内容を思い出すことは出来そうにない。


『…対象者、意識ガアルコトヲ確認。身体、異常ナシ。記憶、一部欠損。情報のインプット、一部失敗』


 機械音の他に誰かの声のようなものが聞こえる。これはいったいどういう状況なのだろうか。


『…対象者ガ起床シヨウトスル意思ヲ確認。1000年マデ残リ5秒。……2、1、0。経過シマシタ。コレヨリ、全機能ヲシャットダウンシマス』


(これ、機械音だな。っていうか、1000年?シャッドダウン?なんのこと…)


 寝ぼけながらも、重いまぶたをゆっくりと開ける。目をこすりながらどういうことだろうと考えを巡らせていると、あれだけけたたましくなっていた耳の痛くなるような機械音がパッタリと止まった。

 そしてその機械音が鳴り終わった瞬間に、上に設置されていたライトが作動する。あまりの眩しさで直視できず、思わず目を瞑ってしまう。とりあえず少女は手で顔を覆い、光を遮りながら体を起こした。



「……どこ、ここ」



 あたりをざっと見渡すと、どうやら研究所の一室のようだった。


 しばらく眺めたあと、少女は立ち上がって離れたところから自分が寝ていたところを観察する。すると寝ていた寝台の真上に、手術室にあるような大きい電灯が設置してあることが確認できた。


(どおりで眩しいわけだ)


 合点がいったところで再度あたりを見渡す。人の姿はどこにもない。


「……これ、寝台というより棺桶みたいだな」


 自身が寝かされていたところをよく見てみるとそれは、棺桶のような形状の青い色をした箱だった。蓋のようなものも付いているところをみると、どうやら自分が起きるついさっきまでは閉まっていたらしい。


「でも棺桶にしてはやけに機械チックなんだよな…。管みたいなのついてるし。第一、死んだ覚えはないし。……私ってなんでこんなところにいるんだっけ?」


 昼寝をしようとしていたのだろうかと思いはしたが、それならこんなに落ち着かないところで寝るはずがない。少女は1人でしばらく「うーん」と考え込んでいると。


「……あ、思い出した」


 

 ―――そういえば私、コールドスリープの機械を使ったんだった。


 使う前はてっきりでたらめかと思っていたが、室内が少し寂れているところを見る限り成功したことを少女は確信する。


「あの機械音が言っていた通り、本当にここは1000年後の世界ってことになりそうだな。ジャンとたくあん、どうなったかな……」



 少女は自身の兄と、その愛猫の身を案じた―――





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