第21話えんがちょ②
瞬間、イワンを中心に放たれた不快なざわめきが肌をビリつかせ――周囲にあったもの全てが鳴動した。
メリメリ……という音とともに小生の刀がイワンに向かって引き寄せられる感覚がして、おや、と小生は少し驚いた。
途端に、イワンの周囲に次々と殺到してきたものがある。
校舎の鉄プレート、街灯の基礎、ブリキのゴミ箱、何かの鉄板――それら全ての金属がイワンの大剣と身体とに纏わりつき、重厚な鉄の鎧、そして不格好な丸太を形成する。
なるほど、雷撃属性の魔術による磁力操作、というわけか。
「どうだ……これが俺の【支配】のエトノスの最終形態、【
もはや正気の声ではない声で絶叫したイワンが立ち上がり、一歩、小生に歩み寄った。
途端に、ズシン、と足元の地面が凹んだのを見て、流石に忠告する。
「おい、もうよせ。その重量では貴公の身体が持たぬ。小生は別に貴公の生命まで断つ気はないのだが」
「黙れ――! リューリカの人間がイエローに負けを認められるか! それにテメェに勝たなきゃな、俺はナターシャに切り刻まれて豚のエサにされちまうんだよ……!!」
イワンの顔に浮かんだ恐怖の表情を見て、小生は昼間のあの氷の横顔を思い出した。
血走った目で歯を食い縛り、全身を軋ませて、イワンはまた一歩小生に歩み寄った。
「テメェなんかに負けて……たまるかよ! 俺は……俺は! ナターシャの本気の折檻を受けるぐらいなら……死んだ方がマシだ!! ぐ……! 俺が……俺が勝つんだ! うがあああああああああああ!!」
この一撃しか振るえまい、というような気合の怒声とともに、不格好な鉄の丸太が横薙ぎに小生を狙う。
小生は瞬間、居合の構えを取り――丸太に向かって振り抜いた。
キンッ、という澄んだ金属音が発し――小生を薙ぎ払うはずだった鉄の丸太を構成する金属がバラバラになって飛び散った。
「は――!?」
全ての鎧を引き剥がされ、元通りになった己の剣を見て、イワンが目を剥いた。
「無駄だ。貴公の魔法は――既に見切っている」
小生は刀を鞘に戻し、固まっているイワンに歩み寄った。
「魔術がダメなら物理……発想はおかしくはない。だがそれを構成する磁力の方を切られてしまえば――同じことよ」
「う……!」
「いくら魔力量を誇っても、魔術体系の妙なることを誇っても、切られてしまえば斯様にも無意味だ――さぁ五度、地面に転がされる覚悟はよいか――」
「お、おい、こっち来るな……! な、なんなんだよ、テメェは……!?」
イワンが恐怖の悲鳴を発した。
「なんなんだ……なんなんだよ、テメェのその剣は!? なんで魔術が斬れる!? 磁力だぞ、魔法だぞ、実体がないんだぞ! なっ、『ない』ものがなんで斬れるんだよ――!?」
「この期に及んで愚かしい妄執に囚われるな。『ある』ではないか、これ程までにハッキリと、な」
「い、意味わかんねぇ意味わかんねぇ、ワケがわかんねぇ!! てっ、テメェは一体何を言ってやがる!? そ、その剣、ほ、本物の魔剣かよ――!?」
「なんなんだ、と問われれば、こう答えよう」
小生はイワンに向かって剣を抜き、両手で刀を構え、正眼の構えを取る。
「小生は蜂須賀九曜――ゆくゆくは【剣聖】となり、世界の頂点に座り、七海を悉く平かにせんとする者――以後、見知り置くがよい!!」
気合の一喝とともに、小生は刀を一閃した。
キンッ――という音が発して、大剣が中程から真っ二つに「斬れた」。
断ち割れた鋒が地面に突き立つのと時を同じくし、磁力を失ったイワンの身体から、纏わりついていた金属片がガラガラと崩れ落ち始める。
「あ――!? うがっ、ぎゃああああああああ!! つっ、潰れるッ――! あ、あ、あああああ……!!」
これだけの金属片に囲まれていたのだ。磁力が消えた途端に自重で潰されてもおかしくはない。
金属の山の中に埋もれてゆくイワンを助けてやろうと小生が一歩踏み出した瞬間――ジャラララ! という音が背後に発し、小生の側を何かが通り過ぎた。
これは――鎖か。ただの鎖ではない。
これかは明らかに魔力を感じる。魔力で紡ぎ出された鎖、か。
複数本の鎖は今まさにイワンを押し潰そうとする鉄塊の山に殺到し、イワンの全身に絡みつくや、イワンを一息に鉄塊の山から救い出した。
「これで二度目の敗北――そして剣を折られた。お前の完全敗北だ、イワン」
◆
「面白かった」
「続きが気になる」
「いや面白いと思うよコレ」
そう思っていただけましたら、
何卒下の方の『★』でご供養ください。
よろしくお願いいたします。
【VS】
もしよければこちらの連載作品もよろしく。ラブコメです。
↓
『魔族に優しいギャル聖女 ~聖女として異世界召喚された白ギャルJK、ちょっと魔王である俺にも優しすぎると思うんです~』
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