第二十九話『体育祭本番』

翌日になり、体育祭が幕を開ける。


「みなさん、体育祭の時がやってきました! 盛り上がってるかー?」

「「「うぉぉぉおー!」」」

「んー? 声が小さくないですか? もう一度。盛り上がってるかー!」

「「「「「うぉぉぉおおお!!!」」」」」

「これは盛り上がっていますね! この調子で体育祭を楽しんでいきましょう! では、各組長からの選手宣誓です」


壇上の校長先生に向かって組長達が宣誓の構えをとる。



「「「「――宣誓(~)! 我々、生徒一同は(~)、スポーツマンシップにのっとり(~)、正々堂々戦い抜くことを誓います(~)!」」」」

「赤組はパワーあふれる熱血魂で!(筋肉ポーズ)」

「青組は確実な勝利に狙いを定めて(眼鏡カチャリ)」

「黄組はとにかく楽しんで!(ジャンプ)」

「緑組はのんびりマイペースで~(その場に正座)」

「「「「本日の体育祭を盛り上げていきます(~)!」」」」



……選手宣誓も個性たっぷりだ。




開会式が終わると同時に各組の配置につく。


まずは応援合戦から。

なんだかんだ他の組の内容を知らないまま本番を迎えたため、観客と立場は同じ。

新鮮な気分で赤組から始まるパフォーマンスを見守った。




************




「「「わぁぁぁああ!!!」」」


観客や生徒の歓声と拍手が響き渡る。

当然オレの拍手も混じっている。


今のですべての組のパフォーマンスが終わったが、どこも完成度の高いものだった。




赤組は一番声が大きかった。

練習の時点で声でっかとは思ってたが、目の前で見るとものすごい圧だった。


動きも豪快で、組長なんか最初の時点で学ラン羽織ってるだけの半裸状態だったのに、途中から脱ぎ捨てて完全に上裸だったからな。

筋肉しっかりついてたから見苦しくないのは流石だったけど。

組の人もよくあのテンションについていけたな……オレならきつかったかも。




青組は一番動きが洗練されていた。

赤組ほどではないけどしっかりと声出してたし、冷静沈着そうな組長の声がしっかり通るほど大きかったのはちょっと意表を突かれた。


動きの方は別に派手なものが組み込まれているとかではなく基本に忠実な動きだったが、組全体がまとまっている分赤組に全然見劣りしていなかったな。

盛り上がるというよりかは引き込まれるような感じだったけど、それもパフォーマンスの一つだ。




我ら黄組は一番動きが多かったと思う。

動いていると大きな声は出せないが、組全体でひたすら走り回り、動きで応援を表現することができたと思う。


動きが大きい分青組みたいに全体でそろえることはできないが、めっちゃ盛り上がってたからこれはこれで問題ないだろう。

というか組長運動神経すごいわ、すげぇ飛んだり跳ねたりしてた。




緑組は……一番独特だったな。

古風な舞のようなものと言えば聞こえがいいが、実際はそのまま寝てしまうんじゃないかって思うぐらいにのんびりとした動きだった。

黄組の後だったから余計にゆっくりに見えただろうな。


まあでもずっとそのままだと思ってたら急に機敏に動きだしたのは笑った。

あれが緩急というものなのだろうか。

残念ながら組長さんはその後体力がなくなったのか崩れ落ちていたけど。

この後の種目に影響しないといいんだが。



◇◇◇◇



≪続いては男女別100mです!≫


まずは一年生から走っていく。

と言っても特に珍しい要素はなく、出席番号順に並び、同じ順番の人と競争するだけ。

リレーみたいに選抜式ではないため、順番によっては大きな差が生まれてしまう。

オレも幸い組み合わせが良く、余裕をもって一位を取ることができた。




「橘君ってすごい足速いんだね」

「体力テストの時記録やばかったって聞いてたけど、本当にすごかったんだね」


一年生の100m走が終わったところでクラスメイトの女子から話しかけられた。


「ああ、一位とれてよかったよ」

「リレーにも出るんだよね? 頑張ってね!」

「応援してるよ!」

「ありがとう」


クラスメイトを見送ると今度は孝平がやってくる。


「良かったね真人」

「孝平か」


何でニヤニヤしてるんだ?


「ああ、一位とれてよかったよ」

「それもだけど、モテモテだったねって」

「モテモテ?」

「女子と話してたじゃん」

「あぁ、流石は体育祭だよな。テンション上がってるからか全然話したことないオレにも話しかけてくれる」


よく話したことない人にさらっと話しかけれるよな。

そういうのに性別が関わってくるのかはわからないが、女子はすごいわ。


「……真人のそういうところ、面白くないよね」

「は? なんで急に文句?」

「別に、からかいがいがないなってだけ」

「あー? からかおうとしてたのかよ、このこの」

「ちょ、やーめーてー」


しばらく孝平の頭をぐりぐりする。


≪次の種目は『妨害あり玉入れ』です。生徒は準備をしてください≫


「おらおらー」

「ちょ、真人! 次始まるってさ!」

「む、仕方ないな。このあたりにしてやろう」

「た、助かったー」




************




≪――点で黄組の勝利です!≫


「っしゃああああ!」

「やった、俺達の勝ちだ! 真人結構玉いれててすごかったよ!」

「ハッハッハ。イエーイ!」

「いえーい。全く、テンション上がりすぎでしょ」


パチーンと孝平とハイタッチをした。



いやぁ、妨害あり玉入れくっそ盛り上がりましたわ。


ただの玉入れだったら大したことなかったのかもだが、板がついた棒で玉を妨害することで籠に入れることが難しくなっていた。

いろんなところから入れよう試みる側とそれをガードする側の攻防を見るのも楽しかったし、やるのも楽しかった。

妨害側も楽しそうだったな、あっちもやりたかった。



オレ達のグループは勝てたが、全体的に緑組が強かった。

緑組の独特なテンポに妨害側が対応できず、一番得点を取ってたって感じ。

正確性とか投げる玉の数とかじゃなくタイミングで勝つなんてな……何が決め手になるかわからんものだ。



◇◇◇◇



≪続いては全校生徒によるUFOです!≫


一番名前から内容が想像できない種目。

観客もピンとこない人が多いようで、アナウンスを聞いて首をかしげていた。


UFOでは五人一組という単位でボールを運んでいくことになるが、ただ前を向いて走るだけの先頭に対して後ろの人はほとんどバック走の形になっている。

当然転びやすく、各所から「待って待って!」や「うわぁぁぁあ!」という叫び声が聞こえてくる。


そういうのを減らすには連携がカギとなってくるわけだが、ここで各組の特色が大いに表れることとなった。



赤組の人は勢いがすごく、ノンストップで走りまくって思いっきり転ぶってのを何回もやっていた。


逆に青組は慎重に行きすぎてゆっくりで、悪くない進みではあるものの速くはない。


黄組はそんな青組に比べて多少ブレはあったものの、安定して進みが良かったと思う。


緑組にはもはやその場でぐるぐる回ってるだけのチームすらいたな。



……その場ぐるぐるはよくよく考えたら前後不覚なだけで連携とか関係ないような?

流石は緑組、不思議な組だ。




「みんなここまでお疲れ様! UFOでは黄組の団結力を見せつけることができたね! 組長として黄組のみんなが躍動してる姿を見れて鼻高々だよ!」

「私達は組長の身体能力についていけなくて全然でしたけどね」

「ちょっと、みんなの前で文句言わないでよ! 私なりに頑張ったのにさー」

「流石に『私が行くよ!』って大玉抱えて一人で走っていきそうになったのは笑いましたけどね。この人ルール理解してねぇなって」


黄組全体から笑い声が上がる。


「むぅ、全然組長に対する敬いの気持ちを感じないんだけど。そんなんじゃ全体の士気が落ちちゃうからしっかりしてよね!」

「皆さん笑っているので問題なしですね。むしろこうやってる方が士気の向上を見込めそうです。組長、ぜひどんどん弄られてください」

「ムッキー!」


そのやり取りで笑い声がさらに大きくなった。

オレも笑いをこらえられず思いっきり笑ってしまったよ。


なんか慣れてる様子だしいつもあんな感じなのかね。

でも組長周りが仲よさそうだとこっちも楽しくなってくるな。


「ふんだ! 午前の種目はあとは部活系と教職員種目だから組としての種目は終わりだね。ちょっと早いけど午後もがんばろー!」

「「「おー!!!」」」



◇◇◇◇



部活行進と部活対抗リレーは得点に関係ない競技で、それぞれの部活をアピールするための種目。

部のユニフォームを着てバッチリキメる人がほとんどだったが、中にはイロモノもいるようで。


「見て真人、着ぐるみがいる」

「うわ、すっげぇ走りにくそう」


どんな部活内容だったらあんな着ぐるみが関係してくるんだか。

なんか宇宙服みたいなのもいるし。

デザイン系の部活ってアナウンスが聞こえてきたが、普段からああいうの作って着てるんだろうか。

とりあえずインパクトは十分といったところだが。



リレーの方は流石に陸上部一強。

それでも陸上部相手に差を詰める運動部の人もいて盛り上がった。


ちなみに着ぐるみの人はそれを着たまま爆走していた。

あんな変な格好をしてる割には速かった気がする。


走り切ってバトン渡した後地面に転がってたけど大丈夫だったのだろうか。

酸欠とかで運ばれてないといいけど。



◇◇◇◇



次は教職員種目かと考えていると、近くから声が聞こえてくる。


「午前最後は教職員種目だけど、何やるんだろう」

「内容は本番で発表だったよね」

「先生たちが運動ってきつそうだけどね~」


そういえば教職員がやる種目だから生徒には関係ないってことで練習の間は伏せられていたんだったか。



放送が流れ、参加者が入場する。

運動に耐えうる人として選出された先生方。

その先生方には予め組が割り振られており、割り振られた組にその先生の成績が反映されることになる。


≪先生方、本日は種目へのご参加ありがとうございます。机がお友達の先生方にとって運動など縁がないものかもしれませんが、私達生徒に負けないアツい活躍を期待しております≫


おお、煽るねぇ。

先生方も大人をなめるなよと表情を引き締めている。


≪さて、今年も例年通り種目の内容を秘密にしておりましたが、皆さん心の準備はよろしいでしょうか。今年の教職員種目は――――いち早くゴールにたどり着け! 『ぐるぐるバット』です!≫


「「「わぁぁぁあ!!!」」」

「「「……」」」


生徒や観客たちは種目が発表されて盛り上がっているが、先生達の方は沈黙に包まれている。

確かにこれなら身体能力の差は出にくいが、単純にやりたくない種目だな……


≪ここで簡単にゴールにたどり着けないようでは出世なんて夢のまた夢ですよ! 待遇改善目指して頑張ってください!≫


「うぉぉぉぉお! 負けんぞー!!!」


体育会系の若い先生が急にやる気を出し始めた。

現在の待遇に不満があると見えるな。

まあこれで勝ったところで何が変わるんだって感じだが。


てかアレ誰が原稿考えてんだ。

絶対後で怒られるぞ。




バットが用意され、ぐるぐるバットが始まった。

先生方がバットを中心にその場で回転し、ふらふらしながらゴールへ進んでいく。


「違うそっちじゃない!」「もっと左!」と声援が飛び交うが、平衡感覚がない状態でそんな声に従えるわけもない。

何人もの先生方がその場に倒れてゴールを断念することになった。



しかし全員が全員そうだったわけではない。



何事もなかったかのように生徒や観客に手を振りながらゴールする先生もいれば、回転し終わって一息ついてから全力ダッシュでゴールするというパフォーマンスを見せてくれた先生もいた。

回転に負けない先生方の背中は正しく偉大だったと言えるだろう。


先ほどやる気を出していた先生は残念ながら回転に抗えず苦しそうにしていたが、その場で倒れることは良しとしなかった。

なんとか気力を振り絞ってゴールを目指し歩き続ける。


そのまま一歩一歩と足を進めていき、ふらふらと学校を後にしていった。



「あれが社会という困難に諦めず立ち向かう大人の姿か……」


強い意思さえあれば人は前に進めるということを示してくれたのだろうか。

何とか頑張って出世してほしいものだ。


「真人、感激してるところ悪いけど全然違うと思うよ」



そんな感じで午前のプログラムが終了した。




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