第三話

「上陸は居住用ポッドでよろしいですか?」

「ああ。それとドールをもう一体乗せてくれ」

「私がいるのに?」


「いや、その村の近くに家を建てて住むんだろ。家事を任せたいと思ってさ」

「メイド、ですか。でしたら警備も出来た方がいいですね」

「警備って……おい、まさか……!?」


「この体の予備を二体作成してありますので、そのうちの一体を乗せていきましょう」

「ハラル顔のドールが二体かよ」


「顔は光学迷彩で何とでもなりますし、双子という設定もアリかと思います」

「見分けが付けられないぞ」


「ではこの右目の下に泣きぼくろを。そちらが私でほくろがない方が予備です」

「わ、分かった。そうしてくれ」


「喘ぎ声のタイミングもレイヤ様お気に入りの愛玩ドールからデータを取り込みました」

「そ、そうか……」


 居住用ポッドは八畳のリビングと六畳の寝室、キッチンに風呂とトイレを備えた簡易居住スペースだ。本来の使用目的は惑星探査で長期間の滞在。当然これにも重力及び磁気シールド、光学迷彩、バルカンレールガンやエアバレット砲が装備されている。


 家を建てるとは言ったが、あくまでそれはカモフラージュだ。快適さが段違いのはずなので、実際には居住用ポッドで生活することになるだろう。もちろんポッドは光学迷彩で不可視にしておく。


 また、ポッドを壁で囲んでしまえば少なくとも出入りするところを人に見られる心配はなさそうだ。


 ハラルと同じ顔をしたもう一体のドール、ルラハを加えて居住用ポッドに乗り込んだ俺たちは、手に入れた日出ひで村近くの空き地へと向かった。



◆◇◆◇



「日出村へようこそ。観光ですか?」


 村の入り口に近づいたところで、拳銃の銃口を向けながら二人の青年が微笑みかけてきた。ハラルからの事前情報によれば彼らは村の自警団で、この行動は盗賊などから村を護るための手段とのことだった。


 盗賊がいるのかよ。


『レイヤ様、装填されているのはゴム弾です。あの銃に殺傷能力はありません』

『そうか、分かった』


 ハラルがチップを通して念話で教えてくれた。頭上に待機している四機の戦闘型ドローンの警戒レベルを通常に戻す。


「いや、あそこの空き地を手に入れたので移り住もうと思いまして」

「あそこを?」


「それで近くにある村がどんなところか見てみたかったんですよ」

「そうでしたか」


 両手を挙げたままの俺とハラル、ルラハの三人に、青年はもう少し待つように言ってから別の青年に目配せする。おそらく俺の言葉の真偽を確かめるためなのだろう。目配せを受けた青年は近くの建物、詰め所のようなところに入っていった。


 しばらくして彼が戻ってくると、銃口を向けたままの青年に持ってきた紙片を見せる。


「お待たせしてすみません。規則ですのでお名前を教えて頂けますか? 私は八木やぎ来人らいと、二十八歳。彼は大久保おおくぼ竜太りゅうた、二十六歳です」


「ヨウミレイヤ、二十歳です」

「ハラル、十八歳です」

「ルラハ、十八歳です」


 ハラルたちの苗字を聞かれることはなかったが、俺の名前と土地の所有者が一致したとのことで銃を収めて再び笑顔を向けられた。


「あそこに住まれるなら三人は村の一員だ。これからよろしく! 俺のことは気軽に来人と呼んでくれ。レイヤと呼び捨てても?」

「構いませんよ」


「レイヤ、敬語は使わなくていい。お嬢さんたちも呼び捨てでいいかな?」

「はい」

「どうぞご自由に」


「僕も竜太でいいよ、レイヤ、ハラル、ルラハ」

「「「よろしく」」」


「双子とは聞いたけど、ハラルとルラハは見分けがつかないくらいによく似ているね。そしてとてもきれいだ」


「お褒め頂きありがとうございます。この右目の下にほくろがあるのが私ハラルで、ないのがルラハと見分けて下さい」

「あ、確かに! えっと、二人のどちらかはレイヤの恋人なのかな? それとも三人は兄妹?」


「竜太、その辺にしておけ。詮索はマナー違反だぞ。しかし兄妹かそうでないかは出来れば教えてほしい」


「俺とハラルは付き合っている。妹のルラハは家事手伝いとして雇ったんだ」

「何か事情がありそうだな。まあいい、これ以上の詮索はしないでおく。付いてきてくれ」


 俺たちは詰め所の応接室のような部屋に通され、他の自警団のメンバーに紹介された。


「レイヤ、よくあんな何もない空き地を手に入れたね」

「都会の喧噪に疲れたからさ」


二十歳そのとしで? 面白いことを言うなあ」

「あそこに家を建てたいんだけど村に頼めるところはあるか? もちろん金は払う」


「それなら俺たちに任せてくれ。どんな家か希望はあるか?」

「二階建てで一階はリビングダイニングとキッチンに風呂、あとトイレ。二階は三部屋欲しい」


「あの広さの土地だからもう少し部屋数を増やしてもいいんじゃないか?」

「住むのは俺たち三人だけだし、寝室として使うのは二部屋だけだからな」


「そうか。ちなみに予算はどれくらいだ? 上下水道と電気、ガスの敷設ふせつにはそれなりに金がかかるぞ」

「予算は気にしなくていい。前金が必要なら額を教えてくれ」


「もちろん前金は必要だが、図面を引いてみないことには材料費も見積もれないからしばらく待ってもらえるか?」

「構わない。村に宿泊施設は?」


「それなら広くはないが集会所に寝泊まり出来る部屋が五つある。そこを使ってくれ。タダでいい」

「いいのか?」


「村人の親戚なんかが来た時に使ってもらう部屋なんだが、あまり需要もなくて持て余しているくらいなんだ。だから気にしなくていいよ」


「風呂は温泉銭湯があるから」

「温泉銭湯!?」


 来人に続いた竜太の言葉に思わず俺は反応してしまった。


「なあその温泉、俺の家に引くのは無理か?」

「温泉を? 無理じゃないけどかなり金がかかるぞ」


「構わない。温泉の使用料が必要ならそれも払おう」

「レイヤ……」

「ん?」


「お前、帝国軍の回し者じゃないだろうな」


「違う違う! 俺たちは訳あって国を出たんだ。あっちではそれなりに裕福だったからさ」

「ああ、だからカタカナ氏名なんだ。流行に乗っかったってわけじゃないんだな。悪かった」


 勝手に解釈してくれたようなので、こっちもそれに乗っかることにしよう。

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