遠野

雨世界

1 私を愛してください。

 遠野


 私を愛してください。


「私ね、この街が大好きなの」

 遠野雨は水瀬守の隣に座って、そんなことを守に言った。

「みんなは田舎だから嫌いだって言うけど、私はそうは思わない。私はこの自然がいっぱいある、自分の生まれ育った街が好き」

 雨は守を見る。

「大好きなの」

「そうなんだ。なんだか遠野さんらしいね」と守は言った。

 それから守はまた読んでいた本の続きを手に持っていたスマートフォンで読もうとした。

「もう、水瀬くん。せっかくこんなに星が綺麗なのに、本なんて読んでちゃもったいないよ」と雨は言った。

「本が好きなんだ」

 守は言う。

 でも、「だめだよ」と言って、本を読むことは雨に止められてしまった。

 それから守は自分の隣に雨がいる限り本は読めないものだと諦めて、夜空に輝く幾億の星を見た。

 ……星は確かに綺麗だった。

 東京では決して見ることのできない景色が、そこにはあった。

「綺麗でしょ?」

 雨は言った。

「うん」 

 守は答える。

「私ね、この街は世界で一番星が綺麗に見える場所だって思っているの。それがこの街の自慢なの」

 世界で一番星が綺麗。なるほど……。確かにそうかもしれないと守は思った。

「でも、やっぱり水瀬くんは都会の明かりのほうが綺麗だって思うのかな?」

 雨が言う。

「そんなことないよ」

 守は言う。

「確かに東京の街の明かりは、すごく綺麗だったけど、この街で見る星空はそれよりも綺麗だよ」と守は言った。

 そんな守の真面目な横顔を見て、雨は、あ、水瀬くんはお世辞でこんなことを言っているのではない、ということに気がついた。

 そして、雨はこの街の星空を水瀬くんが褒めてくれたことが、なんだか自分のことのように嬉しくなって、その顔を赤く染めた。

 それから「水瀬くん」と雨は言った。

「なに?」

 守が言う。

「水瀬くんのこと、守くんって、……名前で呼んでもいい?」と遠慮がちに雨は言った。

「うん。いいよ」

 雨のほうを見て守が言った。

 それから珍しく、守は雨に向かってにっこりと笑った。

 その笑顔を見て、雨はまた、今まで以上に守のことが好きになった。

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