奇怪境界線

あさのたけし

第1話

「———ったく。一ヶ月に一度、見に来るから廃棄の病院の病室で待ってろとか。自分のこの身体の事とか、もううんざりだ」

誰もいない病室でそんな憎み愚痴を放つ。それは"センセー"が一ヶ月に一度しか来ないからなのか、自分の変異した身体にうんざりしているのか。いや?キミはきっときっとその事が重みなのだろう。———とこんな事を考えていたら珍しくセンセー以外の来客だ。「入れ」「あ、あの、失礼します。仲矛なかむかなたさん、ですか」やってきた者も自分を肯定出来ないヤツとみた。どこか自信を喪失していて、でも仕事だから俺を殺しにきた、というところか。

「お前に俺は殺せない。殺させない。こう見えてもまだ人間の心もあるからな、丁重にもてなそう」

俺は病室のベッドから起き上がり、どこからか日本刀を取り出し、女は拳銃を構えるが遅い、何もかもが遅い。殺されたいと願っているのにいざ目の前に死が訪れると生にすがる。人間なんて所詮は……。

「俺たちは人間を狩るのが仕事でな。人間を狩るという正義が奇怪にとってヒーローたる。だから、警察とかスポーツ選手とか簡単にヒーローを語ってるやつは俺からすれば自分を捨てた偽善者でしかない。だってヒーローはバケモノだから」

女の腑に、刀を斬り込む。女は抵抗し、男は無感情に切り刻む。まるで、と言わんばかりに。次第に声は消え、身体は冷えゆく。

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