第2話 四階への手紙

 三十年ほど前、某県に実在していたコーポ古ヶ宮というアパートには、存在しない階の住人宛に手紙が届くことがあった。

 当時のコーポ古ヶ宮は新築で、古い平屋建ての家を取り壊したあとに作られたものである。以前の家も含めて、この現象が起きるまでにコーポ古ヶ宮が事故物件になったことも一度もない。またアパートは三階建てであり、四階は存在しない。


 にもかかわらず、「401号室 田中廉様」や「403号室 吉崎龍也様」といった宛名でたびたび手紙が届けられる。封筒のみで、葉書が届いたことはない。当初は住所やアパート名が間違っているのだろうと郵便局に差し止めの依頼を出したが、手紙が止まることはなかった。手紙の宛名として書かれた文字はすべて違う筆跡だったが、どれも肝心な差出人の名前も住所も書かれていないため、差出人のもとに戻すこともできなかった。

 唯一、本物の切手と郵便局の消印がされていて、消印も様々な場所のものが押されている。


 回収してもらう作業に疲れた大家が郵便局へ相談し、四階が存在しないこと、悪戯である可能性が高いことを伝えて配達を止めてもらったが、手紙は相変わらず届き、この現象がおさまることはなかった。

 怒った大家がもういちど郵便局にクレームを入れたところ、該当の手紙は郵便局を経由していないことが発覚。郵便局の消印も偽造であることが判明した。わざわざ本物の切手を使い、郵便局を経由したことを装いながら、直接投函されている可能性が浮上した。

 悪質な悪戯として警察にも相談したが、直接的な被害が出ていないため当初は協力を得られなかった。そのあいだにも常に存在しない四階の住所宛に届けられ、とうとう警察の立ち会いのもと、届いた手紙が開封され中身が検分された。

 中には三枚ほどの便せんに手紙のようなものが書かれていて、すべて日本語ではあったが、どれも内容が理解不能だった。きちんとした文章の体裁さえなしておらず、何ひとつとして解読することができなかった。結局、警察にも悪戯として処理されることになってしまい、これ以上どうしようもできなかった。その後の調査で書かれた名前の人物は近辺にも存在しないことがわかっている。


 結局、郵便局で「住所間違い」として排除してもらう他なかったが、やはり郵便局に件の手紙は出されていなかった。一方でアパートには手紙が届き続けていたそうだ。


 コーポ古ヶ宮は現在では取り壊されており、駐車場になっているため、件の手紙がどうなっているのかはわからない。

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