第2話 増幅する恐怖

美咲は震える手で絆創膏を胸の辺りに貼り付けた。心のささくれを感じるその場所に、絆創膏が吸い付くように密着する。次の瞬間、目の前の景色が歪み始めた。現実と幻想の境界が曖昧になり、美咲の心の傷が浮かび上がってくる。


「こ、これが私の心の痛み…?」


絆創膏を貼った胸の部分から、黒く濁った液体が滲み出てくる。それは彼女の心のささくれそのものだった。周囲の人々も美咲の変化に気づき始め、困惑した表情を浮かべる。


「美咲さん、大丈夫ですか?何かお悩みでも…?」


同僚の真奈美が心配そうに声をかけてくる。32歳のベテラン事務員である彼女は、いつも美咲を気にかけてくれる優しい人だ。美咲は絆創膏のおかげで、自分の痛みを初めて他人に理解してもらえたことに感動し、涙を流した。



◇ 痛みの共有


「ねえ真奈美さん、この絆創膏を分けてあげるから、使ってみない?きっとあなたの心のささくれも癒せるはずよ」


そう言って、美咲は真奈美に絆創膏を手渡した。真奈美も躊躇いながらも絆創膏を胸に貼り付け、自分の心の傷と向き合う。すると、彼女の胸から黒い塊が浮かび上がってきた。


「私も美咲さんと同じ痛みを抱えていたんですね…。でも、この絆創膏のおかげで、誰かに理解してもらえる気がします」


真奈美は美咲に感謝し、二人は心の傷を分かち合った。そして、美咲から絆創膏を分けてもらった他の同僚たちも、次々と胸に絆創膏を貼り、自分の心のささくれと向き合い始める。一時的な安堵感と共感が、絆創膏を使う人々の間に広がっていく。



◇ 増幅する恐怖


しかし、その安堵感は長くは続かなかった。絆創膏を使い続けた人々の間で、異常な現象が起こり始める。心の痛みが現実世界に影響を及ぼし、物理的な怪我として現れ始めたのだ。


「うわっ!真奈美さんの胸から血が…!」


美咲は絶叫した。真奈美の胸には、心のささくれが原因と思われる深い傷が刻まれていた。他の同僚たちも次々と同様の症状を訴え始め、オフィスは恐怖に包まれていく。



◇ 禁断の絆創膏


美咲は絆創膏の恐ろしさに気づき、使用を止めようとする。しかし、彼女の心はすでに絆創膏に依存していた。一度味わった共感の喜びを手放すことができず、美咲は再び絆創膏を胸に貼り付けてしまう。


「もう二度と使わないと決めたのに…。でも、この痛みを理解してもらえる喜びは、もう手放せない」


美咲は絆創膏の虜になっていた。彼女の心のささくれは、さらに深く暗い色を帯びていく。


(続く)

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