神神の微笑。GirL AnD BoY

八五三(はちごさん)

第一話

 静かな朝の部屋の中は、まるで時間が止まっているかのようだった。窓辺から入り込む朝日により、配置された勉強机やその他の物品などの輪郭が、ぼんやりと浮かび上がって、幽玄な雰囲気に包まれていた。


 数ヶ月前の部屋では、一心不乱に勉学に励む少年の姿があった。

 机の上はノートが散乱し、参考書に汚い文字のなぐり書きと適当に引かれたマーカーペンの跡が。

 心が勉強することに対する抵抗感でいっぱい。で、参考書の文字が、ただ、ただ、ただ、の模様に見えるほどだった。

 机に座り参考書を開く。と、もう一人の自分が勉強するというエネルギーを奪い。いつの間に、か! テレビの前に座りゲーム機のコントローラーを無意識に手に取り、プレイし、時計の針を見ると悲しみと絶望で満ち溢れ――顔が青ざめた。

 そして、最後の力を振り絞って、倒れそうになりながらも、勉強机に向かい受験勉強していた。


 努力が報われた――補欠合格だった。が、合格は合格であり、天に感謝の手を合わせた。良い思い出として心に残っている運の良さに今でも。




 高校生になってから約一ヶ月。


 みなもと 甚助じんすけは、部屋の中央に立っていた。いや、正しくはある構えをとるための動作をしていた。


 足は直立した姿勢から、自然な感じで体重を均等に分散させながら、安定した基盤を形成させると。左足よりもやや前に、右足を少し前に出し置き。足の指は前方を向け、かかとはしっかりと床に。

 そのままの状態から膝を柔らかく曲げだすと、調整されたように目線と身体が、水平の高さに。

 腰をやや前方に突き出し、下半身を安定させる。力の発生源となる腰から身体の中心へしっかりと伝達するために。

 そこから背筋を軽く伸ばすと。リラックス効果から、少し丸まっていた背中が勝手に真っ直ぐに。

 背伸びをしたことにより、力が入っていた肩も。緊張が解きほぐれ、和らいでいた。


 しっかりと握られていた。親指、人差し、中指、薬指、小指たち五指が――見えない物体を。


 目線先は、幼児が頑張ってブロックで建造物をイメージして積みさせかねた参考書の山。その頂上に受験で使用されたであろう鉛筆が、落ちるか? 落ちないか? はみ出して置かれていた。


 すべきことが終える、と。甚助は深くゆっくりとした深呼吸音から、超高速で回転するモーター独特のキューンという甲高い音色へ。




 宙に舞った、はみ出して置かれていた鉛筆が。それも綺麗に縦回転しながら。そして、鉛筆は乗っていた参考書の上に落ちた瞬間――四分割に。


「はあーぁー。受験勉強のおかげさま。で、切れ味が鈍っているな。逆抜きから横一文字に斬ったのに……横一文字が逆袈裟斬りに…………また、研ぎ直しだな」

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