第15話 迷う心

 やってしまった。

 今朝、ナナルと戦った魔石採掘のあと、気晴らしに釣りをしていたのだが……ついうとうとして夕方まで眠ってしまった。


 だって良い天気だったから。

 川の流れる音って、眠気を誘うし。


「ただいまー。あれ?」


 家にキューネがいた。


「ム、ムウ……」


「なにしてるの?」


「えっと、ちょっとね。じゃ、じゃあおじさん、またあとで」


 逃げるようにキューネが去ってしまった。

 なんだったんだろう。


「どうしたのキューネ」


「ん? あぁ、本人には恥ずかしいから言うなって注意されてたんだが……まあいいか」


「?」


「真経穴を学びたいんだと」


「はあ?」


「別のギルドの連中と戦うんだって? だから強くなりたいんだと」


 噂のチギトか。

 でも、だからって真経穴を学ぶだなんて無謀だ。

 まず体中の真経穴を覚えるだけでも相当な勉強が必要だし、実戦で使えるレベルにするにも何年も掛かる。


 中途半端に身につけるのは逆に危険だ。生兵法は大怪我のもと。


「教えたの?」


「いや」


「……」


「気になるなら話してこいよ」


「え」


「このままじゃキューネちゃん、病院送りになりかねないぞ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 とりあえずキューネの家に入る。

 キューネがこっちの家に無断で侵入するように、自分も彼女の家に勝手に入ることもある。


 それくらいお互いを許しあっている……というか、田舎村じゃこんなもんだ。

 プライバシーなんてあってないのだ。


 キューネの部屋は2階にある。

 階段を上がって、扉を開けると、


「ど、どう? マーレ」


「うーん、なんとも……」


 マーレ相手に謎のマッサージをしているキューネがいた。


「うーん、ここかなあ」


「ちょ!! どこ触っているんですか!!」


「ここかぁ〜?」


「おほっ♡♡」


 なにをやっているんだこいつら。


「キューネ」


「わ!! ムウ!! どうしたの?」


「どうしたのはこっちのセリフ。まさか、自力で真経穴を見つけて覚えようとか考えてないよね?」


「は、ははは……叔父さんから聞いた?」


 まったく。

 だからってこれじゃあ、普通のマッサージにもなっていないだろうに。

 マーレのやつも顔を真っ赤にしてる。


 キューネが不満げに語りだした。


「今日のお昼ね、チギトと一対一の対決をする話になったの。そしたら向こうのリーダーが、ムウを出せって。私やドラゴリオンさん、マーレじゃ役不足だって」


 ナナルのことか。


「そりゃあ、私も最初はムウに頼ろうとしてたよ。でもさ、面と向かってバカにされたら、なんか悔しくなっちゃって。これでまたムウに頼ったら、ギルドに入る前と一緒。だから強くなって、今度こそ見返してやろうって……」


「だからって、簡単に真経穴は習得できない」


「わかってるけど、でも、いまのままじゃ……」


 これもギルドのため、か。

 ギルドに所属さえできればいいのだから、吸収されたって構わないだろうと思っていたけど、違う。

 プライドの問題なんだ。


 目の前に立ちふさがった危機に、どう向き合うか。

 なあなあでやり過ごすのか、逃げるのか。

 どちらも違う。立ち向かって、自分たちの居場所を守るのだ。


 でなければ、この先ギルドでやっていけない。

 みんなのために戦っていくことなどできない。


「向こうは、リーダーが戦うの?」


「たぶん」


 あいつ、だいぶ強かったな。

 おそらくキューネでは勝てない。

 だけど自分なら……。


 いやいや、無関係だ。

 ギルドの人間じゃないんだし。

 抗争なら勝手にやってくれ。


「ムウはそのリーダーと戦ったんだよね? リベンジがどうのってことはさ。……どう? どんな人?」


「スキルが2つある」


「え!?」


「ソニックってのと。エナジードレインらしい」


 キューネがゴクリと息を飲んだ。


「ムウ、明日さ、来なくてもいいからね」


「なんで?」


 強がるように、キューネが笑った。


「カッコ悪いところみせたくないから」


「……」


「なんて、そもそも応援する気もないか。はは」


 可愛い笑顔だ。

 力になってあげたくなるほどに。

 でも、一度でも協力したら、歯止めが効かなくなる気がする。


 戦いとか、ギルドとか、面倒なのはまっぴらごめんなのだ。

 ただ、のんびりとストレスなく生きていたいから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 マーレを連れて家に戻る。

 叔父さんはテーブルでくつろいで、パズルを解いていた。


「よお、どうだったキューネちゃんは」


「うーん」


「なんだよ」


「叔父さんはさ、昔いろいろ無茶してたんでしょ? サマチアのギルドリーダーとして」


「あぁ、本当に昔の話だ」


「なんで?」


「なんで、か……」


 自分でいうのもアレだけど、叔父さんとは性格が似ている。

 基本無関心で、夢や欲も薄い。

 なのに、この人はかつて、戦っていた。


「お金のため、ってわけじゃないよね? 誰かのため? 自分のため?」


「どうしてそんなことを聞く。ふん、さては迷ってるな? キューネちゃんのために戦うかどうか」


「別に」


「理由なんかいるかよ。……暇つぶしだ」


「そんだけ?」


「つまらん人間でも、退屈しのぎくらいするさ」


 暇つぶしか。

 そっか。その程度か。


 深く考えすぎていたかも。

 協力なんて大げさなものじゃない。

 単なる暇つぶしなのだ。


 明日、自分は暇だろうか。

 たぶん、暇だろう。


 暇つぶしなのだから、次回も手を貸すかどうかは気分次第。

 という感じで、どうかな。


「くく、捻くれてるなお前」


「な、なんだよ。何も言ってないでしょ」


「お前の考えてることなんて手に取るようにわかる」


 叔父さんのこういうところが嫌いだ。

 読心術が使えるわけでもあるまいに、偉そうに。


「あ、そういえばムウ」


「なに?」


「明日、お前の診断だったな」


「あ〜」


 きっちり半年に一度、身体に異常がないか叔父さんが診てくれるのだ。

 なんせ、モンスターの臓器を移植されているからね。


「でもすぐ終わるでしょ?」


「いーや、その前に村の婆さんたちの血圧を測りに行かなきゃならん。お前も手伝えよ」


「……」


「すまんな。キューネちゃんに謝っておいてくれ」


 ごめんキューネ、やっぱり行けそうにないや。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

ムウも少しずつ変わり始めた……のかなあ?

ちなみにいまさらですが、全角英数字を多用するのは、目の悪い僕自身への配慮です。許して。


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