ギルド救済編

第7話 最弱ギルドのドラゴリオンとマーレ

 日を跨ぎ、キューネと二人でサマチアの街を訪れた。

 奪ったギルド管理書を返すためだ。


「ランドたちいるのかしら」


「んー、やつはもうマトモに生活できないし、入院していると思うよ。でも他のメンバーくらいは、いると思う」


 とりあえず酒場に入る。

 昼なのに賑わうここの奥が、ランドたちの溜まり場だった。


「部下っぽいやつ、いないね」


 どうしたものか。


「あの〜」


「ん?」


 声がする方を向けば、メガネをかけた男が立っていた。

 汚れ一つない真っ白なローブを着込んだ、七三分けの真面目そうな男。


「もしや……ムウさん、ですか?」


「はい」


「あ〜、あなたが……」


「そっちは?」


「ランドがリーダーを務めていたギルド、『サマチア最強ランド軍団 ジ・アルティメイト』の副リーダーです」


 え、そんなギルド名だったんだ。

 ダッサ。


「副リーダーがなにか?」


「あなたが管理書を持っていると耳にしたのですが」


「あ、はい。返します」


「返すんですか!?」


「いらないので」


「いらないんですか!? ギルドリーダーの証なんですよ!? それを持っているだけで無料で受けられるサービスだってあるのに」


「興味ないです」


「興味ないんですか!?」


 そんなオウム返しを連発しないでほしいな。


「とにかく返します」


「まさか、ウチのギルドに入るつもりも……」


「ないですね」


「こ、困りますよ!! せ、せめてメンバーになってくれないと」


「なんで?」


「人数がドガッと減ったからです!! ランドがいなくなって、彼を慕う連中も抜けちゃったんです!! 三〇人もいたギルドが、いまや僕も入れてたったの四人。しかも仕事をする気があるのはそのうちの一人!! あぁ〜もう、どうしたらいいんだ〜」


「そんなに減っちゃったんだ。意外と慕われていたんだね、ランドって」


「前代未聞の規模の少なさですよ!! 最弱、まさに『最弱』のギルドになってしまったんですッッ!!」


 大変そうだな。

 副リーダーというからランドに似たタイプなのかと思ったけど、まるで正反対だ。


「キューネ、入りなよ」


「え? 私? う、うん、ギルドにはいずれ入るつもりだし、いいけど……」


 副リーダーの目が輝いた。


「本当ですか!?」


「で、でも私、まだまだ弱くって、足手まといになっちゃいますよ」


「構いません!! とりあえず入ってくれたら!! 後から強くなればいいんで!! で、ムウさんは?」


 首を横に振る。


「な、なんで!?」


「家でダラダラしてるほうが楽しそうだから」


「そんなぁ!! な、ならせめて、次の依頼だけは同行してください!! 小川をせき止めているゴーレムの退治を依頼されているんです!! いまのメンバーじゃ、心もとなくて……」


 知らないよそんなこと。

 こっちはギルドがどうなろうが知ったこっちゃないのだ。


「もしこの依頼が失敗したら、ギルドは解散。僕は路頭に迷ってしまいますぅ。妻と子供をどう食べさせていけば……」


 家庭を持っていたんだ。


「ムウ、いいじゃない、参加しても」


「キューネまで」


「暇つぶしの人助けだと思ってさ」


「……はぁ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 役所で正式な依頼の手続きをしてから、馬車でツーの村へ急いだ。

 街から近い村だから、まだ夕方にもなっていない。


 ちなみに、副リーダーの名前はドラゴリオン。なんとも強そうな名前だ。

 ランドとは旧知の中で、面倒な事務仕事を押し付けるために副リーダーにされたのだとか。


「ここで唯一やる気のある最後のメンバーと合流します。フォーの村から直接来るそうです」


「へえ」


 キューネが手を上げた。


「じゃあ今のうちに武器を買ってくるね。素手で戦える相手じゃなさそうだし」


「うん、行ってらっしゃい」


 さて、どうやって時間を潰そうか。 

 適当に牧場の柵に寄りかかり、のんびり日向ぼっこをしている牛を眺める。

 いいなあ、羨ましい。生まれ変わったら牛になりたい。


 やがてキューネが帰ってきた。

 大きな斧を買ったらしい。


「使えるの?」


「うん、平気。まき割りで慣れてるから」


 と、ドラゴリオンが声を発した。


「来ましたね」


 トテトテと、誰かが走ってくるのが見えた。

 背の低い、紫色の髪をした女の子だ。


「はぁ、はぁ、お、お待たせしました」


「マーレ、こちらが新しいギルドメンバーのムウさんとキューネさんだ」


「ど、どうも」


 マーレなる少女が顔を上げる。

 白い肌に、丸い顔。それと……髪と同じ紫色の瞳。


「ユクイエバ人」


「あ、はい……すみません」


 オドオドと、マーレが視線を下げる。

 ユクイエバ人とは、大陸の南方に住んでいた一族で、モンスターだろうが人間だろうが構わず食べる人食い族として恐れられていた民族だ。

 とある国の弾圧により大幅に数を減らし、世界中に散り散りになっている。


 人食い族が現れたことで、キューネは若干後ろに下がった。


「ムウさん、キューネさん。安心してください、彼女はベジタリアンです」


 マーレがコクコクと頭を上下させる。

 なんでもいい。さっさとゴーレムを倒してしまおう。


「あの……」


 マーレが話しかけてきた。


「なに?」


「スキルがないのにランドさんたちを倒したって、本当なんですか?」


「うん」


「す、すごいですね……。そんな人を……」


「?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 村に流れる小川に、目当てのゴーレムがいた。

 ちょうど流れをせき止めるようにゴロンと寝転がっていて、溢れた水のせいであたりがぐちょぐちょになっていた。


 どうやら水浴びをしているらしい。


「もっと放置していたら大変なことになっていたかもね」


「ねえムウ、あなたの戦い方はゴーレムに通用するの?」


「ゴーレムに真経穴はないよ。でも、手段はある。手足や首を動かす以上、人間でいう関節があるから、そこを突いてバラバラにする」


「なるほど……」


 でも正直、ゴーレムとかスライムみたいな単純構造なモンスターって苦手。

 少し手間が掛かるから。


「ムウ、見てて、私、やってみる」


 じゃあ着いてきた意味ないじゃん。

 まあ、もしものときは力を貸すけど。


 ドラゴリオンがマーレに告げる。


「僕があのぐちょぐちょの地面を固める。そしてマーレのスキルで翻弄するんだ」


「は、はい」


 いったい二人にはどんなスキルがあるのだろう。

 こちらの声に気づき、ゴーレムが立ち上がった。


 ドラゴリオンが腕を前に出す。


「スキル発動!! ブリザード!!」


 魔法陣が出現し、身も凍るような冷気を放出する。

 なるほど、氷系の魔法を操るスキルか。

 ぬかるんだ地面が、カチコチに凍っていく。


 続けて、


「スキル発動!! ステルス!!」


 マーレの姿が消えた。

 こっちは透明化か。


 見えないことを利用して、走り回りながらゴーレムに石を投げているようだ。


 しかも、石はマーレから離れるまで同じく透明になっている。

 身につけているもの、持っているものにもスキルの効果が適用されるわけか。


 いつ、どこから石が投げられてくるのかわからず、ゴーレムは明らかに混乱している。

 その隙に、


「スキル発動!!」


 自分自身を強化したキューネが、斧でゴーレムの右足の付け根に打撃を加えた。

 ガコンと足が外れ、ゴーレムが倒れる。

 うん、この調子なら無事に終わりそうだ。


 案の定、ゴーレムはバラバラになって倒された。


「どうだった、ムウ」


「良いね。でもキューネ、せっかくバフ系の魔法が使えるんだから、他の二人にも使ってあげたらいいのに」


「あっ!!」


 ドラゴリオンも「ふぅ」と安堵している。

 依頼は無事達成。ツーの村に平和が訪れましたとさ。









「で、マーレは後ろからなにをするつもりなの?」


 背後に感じていた気配が、止まった。


「見えなくてもわかるって、気配がバリバリだもん。それに、足音も完全に消しきれていない」


 後ろを向く。

 もちろん、誰の姿もない。

 すると、


「あ、あの……」


 スキルを解除し、マーレが姿を現す。

 その手には、人を殺すには充分な大きさのナイフが握られていた。


 ガチガチと歯を鳴らし、膝まで震えている。


「殺そうとしたの? 後ろからぐっさりと」


「わ、わたし……」


 キューネとドラゴリオンも驚いている。


「誰かに頼まれた?」


「……」


「暗殺するには良いスキルだけど、君程度には殺されないよ」


「……」


「なんとか言ってよ」


「ご、ごめんなさい!!」


 マーレが逃げ去っていく。

 殺そうとしたのは間違いないだろう。

 問題は誰の指示か。あの子の意志ではないはずだ。


 ま、ランド辺りだろうけど。

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