仮面舞踏会2

 舞踏会の会場となる劇場は、繁華街から少し離れた場所にあり、古びた建物ではあったが、思ったより敷地が広かった。二人共、受付で何の問題もなく中へと通してもらえた。

 この劇場には、ダンスホールが併設されており、舞踏会はそのダンスホールで行われる。ダンスホールに入ると、既に多くの客達が歓談していた。


「こんなに多くの人がいる中で、麻薬の取り引きが行われるのか……」

「麻薬の売人と客は、周りに気付かれないよう、エスト語で会話をし、さりげなく会場を抜け出し、麻薬の取り引きをするようですよ」

「成程……」

 エスト語は、異国の言葉である。ちなみに、マティアスはエスト語が解らないが、リディオは日常会話程度のエスト語を話す事が出来る。


 二人が話していると、側を一人の女性が通り過ぎた。その女性が赤毛だったので、マティアスは一瞬ドキリとした。

 しかし、ガブリエラがこんな所にいるわけがないし、体格も違う。ガブリエラは、もっと小柄だ。マティアスは、首を振ってまたリディオと話し始めた。


「あれ?マティアスじゃないか」

 不意に声を掛けられた。振り返り、マティアスは思わず顔をしかめた。ウェーブがかった銀色のショートヘア、少し軽薄に聞こえる話し方。仮面を着けていても誰だかわかる。


 実はこの銀髪の男、王弟である。名前はジェラルド・オルダーニ。現在三十六歳で、宰相を務めている。マティアスの両親と仲が良く、両親の死後急に当主となったマティアスを色々な面で助けてくれた。


 それはいいのだが、この男、人使いが荒い。頻繁に視察に同行しろだの貴族の不正について調査しろだのと言ってくる。最近は、マティアスが彼にあるお願いをした事によって、さらに酷くなっている。


「お前、こんな所で何してるんだ?」

「……ある調査をしに来たとだけ言っておきます。殿下こそ、何故こちらに?殿下は、あまりこういう場がお好きではないと存じますが」

 マティアスは、小声で尋ねた。

「こちらも調査だよ。貴族の不正のな。……そうだ、お前、明後日城に来い。書類の整理を手伝ってくれ」

「私も暇ではないのですが」

「いいじゃないか。お前のあの頼み、聞いてやるから」

「そうおっしゃいますが、実行に移す気配が感じられません。出来るだけ長引かせて、俺を働かせようとしていますね?」

「まあな。貴族社会の膿を出す為には、何だってやるさ」

「……腹黒宰相め」

「いいねえ、俺は素のお前が好きだよ。……まあ、お前も忙しそうだし、明後日の仕事は勘弁してやるか。じゃあな」

 そう言って、ジェラルドは手をヒラヒラさせてその場を去って行った。


「……王弟殿下は、あのようなお方だったのですね。知りませんでした」

 リディオが目を丸くして呟いた。

「まあ、初めて会ったらびっくりするよな。でも、ああ見えて苦労してるみたいだぞ。今、王宮は第一王子派と王弟派で真っ二つに割れてるからな」

 家臣が勝手にバチバチやっているだけで、当の本人達は仲が悪くないという噂もあるが。


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