騎士の来訪5

 夕食の時間、ガブリエラ達は食卓に着いた。

「私までご馳走になっていいのかな?」

「いいんですよ。ベルナルド様も料理を手伝って下さったんですから」

 ベルナルドの言葉に、ガブリエラが笑顔で答える。二人で作った料理を、リディオが配膳していた。


 運ばれた料理を見て、マティアスは目を見開いた。

「これは……」

 目の前にあるのは、牛肉の蒸し煮にポテトと紫キャベツの煮込みを添えた料理だった。

「マティアス様のファミリーネームとか話す時の発音を聞いていて、もしかしたら元々は北東の地域の出身なんじゃないかと思ったんです。それで、そちらの地域の郷土料理を作ってみました」

 今ガブリエラの意識は灯里が支配しているが、ガブリエラとしての記憶もある程度残っている。ガブリエラは、交友関係が派手なだけあって、近隣諸国の地理や文化に詳しかった。


「……頂きます」

 マティアスは、そう言って料理を口に運んだ。そして、一瞬驚いた顔をした後、穏やかな表情で目を細めた。

「……どうですか?」

 ガブリエラが、少し緊張した様子で尋ねる。

「……おいしい。懐かしい味だ」

「良かった……」

 ホッとした表情でガブリエラが言った。


「他に作って欲しい料理とかあったら言って下さいね。私、こう見えて料理は得意なんです」

「……ああ、朝は食欲が無い時が多いが、何か思いついたらリクエストさせてもらう」

「ヴァンパイアといえども、食事は貴重な栄養源だからな。食事を楽しめるに越した事はない」

 ベルナルドが爆弾発言をした。マティアスとガブリエラが、揃ってベルナルドの方を向く。

「ん?私がバルト伯爵の正体を知らないとでも思っていたのか?これでも裏の世界には通じてるんだが」

「牙を隠す薬を飲んだ意味が無いじゃないか……。あの薬、なじみの薬師から買い取っているんだが、高いんだぞ」

 マティアスが、頭を抱える。


 「でも、ここに来たのがベルナルド様で良かった。マティアス様が連行されなくて、本当に良かった……」

 そう言って、ガブリエラは微笑んだ。

 その笑顔を見て、マティアスは目を瞠った。そして、すぐ首を振って食事を再開した。

 ガブリエラの笑顔に心を動かされたのは、きっと気のせいだろうと、マティアスは自分に言い聞かせた。


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