第25話 やー、負けた負けた

なんと週間総合3位に! 感謝の文章は一番最後に書いてます!

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「うっ、があぁぁぁぁ! いっだいくそったれぇ!! ぬぐぅぉー……!」


 スケルトンに挑んだアバターが死亡した俺は、意識の戻った本体で地をゴロゴロと転がりながら喚き散らす。

 左腕を失い脇腹を切り裂かれた後も、体が完全に死ぬまで戦い抜いたので、その分強力な痛覚のフィードバックを受ける。

 しかも戦闘中に左腕や内臓を切り裂かれたときの比ではない、死ぬ間際の命が危機に瀕する際の痛覚だ。

 

「うおぉ……」


 全力で喚き散らし、息が続かなくなったところでうめき声に移行する。

 同時に、頭の中では痛覚とともに今回の敗因を探り続ける。

 痛覚からの逃避であると同時に、毎回自分の戦闘の様子を振り返るための時間だ。


 やがて数分して痛みが薄れてきたところで、視界に浮かぶコメント欄が目に入る。

 

:怖すぎる

:そんな転げ回る程痛い事なんで続けられんの?

:離脱して吐いてきたらすっきりした

:いくらダンジョン配信が規制緩くて倫理フィルターかかってるとはいえ、体中真っ赤になるのは聞いてない

:スケルトンにたかられて殺されるの普通にトラウマになりそうなんだが


「……くっそ痛え……」


 分身スキルのフィードバックの厄介なところは以前からも言っている通り、分身で受けた損傷、特に痛覚に関する情報が本体にも伝えられるということだ。

 そして通常の《分身》スキルの場合、分身に痛覚があるというのはリアルタイムの話だが、俺の場合は分身に移っている間は本体には精神がおらず痛みを感じることが出来ないので、分身が死亡、消滅した後本体に戻ってから一気に痛覚情報が本体へと流れ込んでくる。


 故に、こうして一瞬痛いだけでなく数分転げ回るような羽目になっている。

 その間も、分身で受けた痛覚が幾度も俺の肉体にフィードバックされる。

 それも死ぬ寸前のアバターが最も損傷を負っているときの痛覚が続くのだ。


「いやー痛かった……」


 そして俺は、そんな痛覚にもはや慣れてしまっている。

 正直な話、これで精神狂ってない俺は元から狂ってんなというのが自分なりの感想だ。


「どうだった、俺が本気出したときの死にゲー式探索術」


 へたり込んだままだが体を起こした俺は、ドローンの向こうの視聴者に向けてそう問いかける。

 普通に他の人達から見て、俺の行動がどう見えているか気になった。


:普通にケロッとした顔で尋ねてくるな

:普通に怖かった

:アニメのトラウマシーンとかより怖かったんだが

:めちゃくちゃに暴れてたな

:せめて左腕逝った段階で分身解除して撤退とかできんかったの?


「あー、死ぬまであがく、分身解除しないのは、そうするのが俺のポリシーだからだな。普通に考えて無限回の命で索敵出来る俺ってずるいだろ? 他の探索者から見て。だからその分ちゃんと死ぬまで足掻こうって決めてんのよ」


:シリアスが、終わらない……!

:確かにそう思ったことはあるが

:そこまでのものは求めていなかった

:あんなの見たらずるいとか言えませんわ。痛覚どうなってんだよ

:とてもではないけど真似が出来るとは思えない

:ずるいと思ってごめんなさい


 なんかコメント欄の視聴者達が全体的に泣きが入っているように感じる。

 それにコメントが流れていく速度も戦闘開始前までと比べると遥かに遅い。

 これは一体どういう状況なんだろうか。


「なんか全体的に、こう、勢いがなくない? 何があったの?」


:普通にお通夜です

:明確な狂気を感じた

:いつの時代のお方ですか?

:この前春秋戦国ファンタジーでこんな奴見たぞ

:修羅の国の住民ですか?


 なるほど、おおよそ視聴者達の言いたいことは理解できた。


「要するに俺の死にゲー式探索術が結構衝撃的だったってことね」


:結構どころじゃないんですが?

:途中で吐きに行く人の多いこと多いこと

:マネージャーちゃん泣きそうなコメントしてたぞ

:戦闘中にはコメント一切見てないんか?


 そう言えば、確かに鳴海のマネージャーアカウントからのコメントが無い。

 ついでにレイラやミノリからのコメントもあるものだと思っていたが、今のところはついていない。

 流石に勝てない戦いでは飽きられてしまったのだろうか。

 あるいは俺が怪我をしていく様子が見ていられなくなったのか。


「まあ……こうやって俺は越えてきたんで」


 しかし、これが俺である。

 人と近い距離感で関わるのがそれほど得意ではなく、ソロでダンジョンに潜ることにした俺が、初めてダンジョンに入ったときに与えられたこの《分身》というスキル。

 まさに1人挑まんとする俺に与えられるのに相応しい力だと思った。


 その力を最大限に活用して、俺はこれまでダンジョンを探索してきた。


 分身だが死んだ回数は一度や二度ではないし、本体が死にかけたことだって幾度もある。

 そのたびに痛みに転げ回り、己の不足に歯を噛み締め、それでも幾度も挑み続けてきた。


 分身の死と苦痛を許容して、俺はソロでこのダンジョンに挑み続けているのだ。

 数多の屍を積み上げて、このダンジョンを切り拓いてきた。


 ダンジョン探索に何か強い思い入れとか、どうしても下へ下へと進まなければならないような高尚な理由なんて持ち合わせていない。

 ダンジョン探索や戦闘が好きかと言われれば好きだが、では俺が好きなものに命かけて取り組むタイプかというとそういうわけでもない。


 ただ俺の魂が、心が、お前はここで生き、そしてここで死ぬのだと訴えているのだ。

 だから俺は、死力を尽くしてダンジョンに挑み続ける。

 数年前から俺はそう決めている。

 

 そして多分それは、この世界の多くの人にとっては異常な決断に見えるのだろうということも、俺は知っている。


「見れない人は見なくて良いけど。俺はこんだけダンジョン探索に本気なんだぜ、ってことぐらいは知っておいてもらいたいな」 


 きっと今深層を探索している探索者達は、丁寧に丁寧に探索をしているのだろう。

 それはそうだ、普通は俺のように《分身》スキルで無限残機で突っ込み続けるようなことなんて出来ない。


 でも、その慎重さは臆病なまでのものになってはいないだろうか。

 無理をして奥に進まなくても現在地で稼げば金になるからと、先に挑む努力を怠っては居ないだろうか。

 仲間を多く集めることで自分に集まる責任を減らし、楽になった環境で『頑張った』などと、ぬるいことを言っていないだろうか。


 あえて口にするわけではないが、俺は多くの探索者達に問いかけてみたい。


『お前は、ダンジョン探索に対して、本気であれているか?』


:そりゃそれだけ覚悟決まってたら深層ぐらい踏破するわな

:ヌルとスキルの噛み合い方が最高に良すぎる

マネージャー:普通に怖かったんだけど! お兄帰ってきたら説教!

:一番無茶をしたいやつに一番無茶出来るスキルが渡ってしまった感じ

:いや、でもかっこよかったわ


「なんでや! 怖いなら見るな言っただろ!?」


:残当

:ちゃんと怒られてもろて

:分身でも普通はそんな無謀なことはしないんだよなあ

高森レイラ:分身だというのは理解出来るけど、でもヌルはもっと自分を大事にして

:分身だから死んで良い、って普通はならないからなあ


 酷い話だ。

 俺はこれほどまで真剣にやっているというのに。

 だがまあ、今回の戦闘は正直言って俺自身も無謀なものだと思っていた。


 というよりは、どれほどに無謀なことなのかを確認するためにあえて無茶をしたと言っても良い。

 だから鳴海に叱られるぐらいは、甘んじて受けておくことにしようと思う。

 それにまあ、分身だろうと仲の良い身内があんなことやってるのみたら普通はトラウマになってもおかしくないと思うからね。


 俺だったら「良いぞもっとやれ」って言うけど。

 そのあたりの振り切れ具合は俺が完全に振り切れていてそのストッパーを鳴海がしてくれるぐらいで丁度良いのだ。


「まあ普段はここまで無謀じゃない。今回はどれだけ俺が行き詰まってるかを皆に見せたかったし、俺自身改めて今の自分の弱さとか、あそこを突破するのに足りないものとかを確認したかったから馬鹿をやったってだけだ」


:自覚あったのか

:確かにあの層が無謀なのはよくわかった

:でもそれをヌルはソロで討伐したいと

:レベルが足りんとか言ってたっけ?


「そそ。レベルが足りんのよ。だからどっかで稼いで、多分250ぐらいレベルあればスケルトンも蹂躙出来ると思うんだよな」


 実を言えば、一つ前の階層のモンスターやボスモンスターも討伐するのはかなりきつかったのだ。

 ただそっちは、スケルトンどもが根城にする【戦場跡地】とは違ってボスとは1対1で戦うことが出来たので、死にゲー式攻略術で相当の時間をかけてボスに辿り着くルートや討伐後の離脱のためのルートを調べまくった結果、なんとか討伐することが出来た。


 まあこれまでそうやって死にゲー式攻略術でなんとかなってしまってきたせいで、今現在俺は深刻なレベル不足に陥る、なんてことになってしまっているのだが。


「とりあえずレベリングは……ワイバーンが一番安牌だけど、流石に階層差があって美味しくないんよなあ」


:5層と17層じゃあそりゃあ差が出るか

:ワイバーンとこは岩陰に入って首突っ込んでくるワイバーンスッパスッパ斬ってたもんなあ

:ゲームのハメ技みたいだった

:他にそういう安全に稼げる場所はないんか? ソロだし無理は出来んだろ?


「選択肢はいくつかある。1つ目が第13層、【巨人の巣】だ。巨人って言ってもまんま人間じゃなくて、でかい人型ってだけだけどな。こっちは敵が純粋なパワータイプだから、丁寧に戦えば負けはない」


 第13層【巨人の巣】に存在するのは、ごく少数の巨大な人型のモンスター達だ。

 巨人とは呼んでいるが、人と違って肌が硬質化していたり、四足歩行していたり体表に鉱石が生えていたりと、人間をそのまま大きくした存在ではないので、戦ってもそこまで怖くはない。

 いや、巨大なのは怖いのだが、巨大とはいえ人を斬るというよりモンスターを斬っている感じがして特に腰が引けたりはしないのだ。


「で次に安牌なのがちょっと戻るけど第9層の【湖】だ。ここは基本水棲から半水棲のモンスターしか居ないんだけど、ボスを倒すつもりが無いなら一番安全に狩り続けられる。ただ効率がめちゃくちゃ悪い」


 第9層の湖は、水棲の巨大イカや巨大鮫、水竜などが住んでいるエリアだ。

 ただ、大半のモンスターが水棲から半水棲なので、地上の離れたところからバカバカ魔法を打ち込んでいると反撃を全く受けずに狩り続けることが出来る。

 時折水竜のブレスは飛んでくるが、よく見ていれば回避は余裕だ。


 ただ、人間である俺が湖に近づかないとモンスターはアクティブにはならない。

 そのため、魔法を撃ち続けて当たるまで待つという運要素が強いエリアになる。

 稼ぐのは安全だが、その分リターンも少なく時間もかかる。


 ちなみにここのボスを倒すには湖の中央にある島に行く必要があり、その過程で多くのモンスターをアクティブにしてしまうので、普通に攻略するのはやたらと大変だった。

 最終的にここの探索で、魔力を操作して足場にするという可能性に気づくことが出来たが、もう二度とボスモンスターとはやりたくない。


「で、最後が、ハイリスク・ハイリターンの第15層【大樹林】。ここはグリフォンとか竜の一種みたいなやつとかファンタジックなモンスターが出るけど、その分一体一体が馬鹿みたいに強い。他にはオークとかもいるけどこっちはどうにかなるけどな」


 深淵第15層、大樹林。

 その名の通り見上げるほどに巨大な樹木によって構成された樹海だ。

 この大樹林には、様々なモンスターが生息していて、中でもトップクラスはグリフォンと怪鳥、そしていたち竜と俺が呼んでいるモンスターだ。

 こいつら相手は、正直今の俺でも苦労する、というか危うい可能性が全然ある。


 1度越している以上は倒せるとは思うのだが、いかんせん100パーセントの安全を保てる自身は無い。

 ただその分リターンも大きく、1体倒せばレベルが1上がるほどには、経験値の効率が良い。


 ついでに言えば、ここのモンスターも基本的に一匹狼的な動きをしているので、戦闘中に他のモンスターに乱入される心配が無いというのが一応レベリングに向いている点だ。

 更にときにはモンスター同士が諍いを起こしていて、俺が美味しく漁夫の利を頂けることもあるので、本当にハイリターンは見込める。

 ハイリスクでもあるけど。


 なおそれらのモンスターから隠れるように住み着いてるらしきオークは、よくそいつ等の餌食になっていたりする。

 こっちは正直、パワーはあるが機敏な動きに弱いのでただのカモである。


:今のがあってすぐに次の鍛錬考えるのエグすぎるだろ

:名前だけ聞くとどれも気になるなあ。ヌル移動中はカメラしまっちゃってるし

:安全かつ稼げるところで良いんでない?

:ハイリスク・ハイリターンはお前が言うと洒落にならん

マネージャー:巨人のところで決定


「オッケー、じゃあ久しぶりに【巨人の巣】行ってみるか」


 鳴海も言っていることだし、流石にハイリスクが過ぎる【大樹林】に行くのはやめておこう。

 少しばかり経験値の効率は下がるだろうが、【巨人の巣】の方が遥かにレベリングとしては安全だ。

 

 ちなみにだが、15層は別に一番やばかった場所ではない。

  

「言っとくけど別に15層が一番やばいわけじゃないからな。超ハイリスク・超ハイリターンの16層と14層を提案しなかった分マトモな選択肢だ」

 

 詳しくは説明しないけど、あそこらへんは俺にとっては本当に地獄だったからな。

 今の自分でも何故越せたのかわからないぐらい厳しい環境だった。


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応援してくださる皆様のおかげで、なんと週間総合3位まで上がることが出来ました。

これもたくさんの人が読んでくださって、フォローや評価をしてくれたおかげです。


これは本当に作者としてはいろんな意味で嬉しくて、例えば「ドラゴンノベルスの応募中だしもしかしたら書籍化あるかも」って妄想したりとか、PV数からくるアドスコアの延びを見て「やったお金だわーい」って喜んだりしてます。


嘘です。

いや嘘ではないんですけど。

一番嬉しいのは、作者が面白いと思うものを多くの人にも面白いと思って貰えている点です。

共有出来ている感じ、とでも言うんですかね。

それがあるのがとても嬉しいです。

作者は自分で面白いと思っているからどんどん続きを書けるし、読者はそれで楽しめる。

最高の状態ですね。


これからも勢いの続く限り書いて、一日一話を目安に更新していくので、是非応援お願いします。


(カクヨムのギフトのサポーターとかファンボックスhttps://www.fanbox.cc/@amanohoshikuzuでは、できる限り書けた話は先行公開するようにしています。本作は今のところ毎日投稿なのでそこまで旨味はないかもしれませんが。

またそこだけにしか無い、別の小説とか短編とかもあります。


良ければ是非、作者を金銭的にも応援して頂けると嬉しいです)

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