宇宙人、星になる

マネキ・猫二郎

【Prolog】星に願いを

 「春だねぇ」


 月下、桜の花弁が庭に舞う。

 酒器に注いだ焼酎のほろ苦い香りを嗅ぎながらホッと溜息をつく。


 「澄香すみか、春なのはいいが、そろそろ父さんのお酒を返してくれないか」

 「あ、ごめん」


 お酒の匂いは私を少し大人の気分にさせる。


 酒器を父さんに返し、星空を見上げた。海みたいにキラキラと輝いている。私は流れ星を探して、夜空に目を泳がせた。


 夜風が桜と髪を靡かせる。春の夜風は心地がよい。


 ふと横に目線を移すと、父さんは焼酎をチビっと啜り雑草を眺めていた。


 「父さんも流れ星、探さない?」

 「ずぅっと上向いてると首がくたびれちまう」

 欠伸をしながら父さんはいう。


 「そっか…そうだよねぇ」

 私も欠伸をする。


 「そろそろ寝な。明日から学校だろ」

 「もうちょっと探させて!」

 「いーや寝ろ」


 父さんは腰を曲げたままコチラを見て微笑む。


 「代わりに探しとしてやる」

 「……じゃあ、寝るね。おやすみ」

 「はいおやすみ」


 縁側に上がり、二階の自室へ向かった。


    〇


 ちゃりりりりりり、ちゃりりりりりり

 ちゃりりりりりり、ちゃりりりりりり

 ちゃりりりりりり、ちゃりりりりりり

 ちゃりりりり…バンッ!!


 「うるさいっ!!」


 私は目覚まし時計を叩いて不機嫌に声を荒らげ、布団を深く被る。


 それから少しすると、カチャっと自室のドアを開けるような音がした。


 身体を起こして、部屋のドアの方を見るとお父さんが呆れた目でコチラを見つめていた。


 「だから目覚まし時計っつぅんだよ」

 欠伸をしながらお父さんは言う。


 「そっか…そうだよねぇ」

 私も欠伸をする…そして再び布団を被る。


 「起きろ」


    〇


 眠い目を擦りながらお父さんと二階から一階のリビングへ向かう。


 今日からまた小学校だ。しかも学年が一つ上がって三年生、もっとちゃんとしなきゃいけなくなる。クラスはどうなるかなぁ。


 そんな不安のような、期待のような、はたまた二つがゴッチャになったような感情を抱えながら階段を降り切り、廊下を歩く。


 リビングへ繋がる扉の前まで来ると、やっと一日を始める気分になる。


 ──でもこれから始まる一日は、とびっきり不思議で特別な一日になることを私とお父さんはまだ知らなかった。


 お父さんが扉を開いて少し進む。するとお父さんは左手の食卓を見て驚嘆の声を上げながら腰を抜かす。私からは壁に阻まれて丁度見えない。


 私は急いでお父さんの元へ駆け寄りながら「大丈夫!?」と声を掛け、目を丸くするお父さんの視線の先へ目を向けた。


 その時、私は「あっ」と一声あげて驚いた。腰を抜かすほど驚きはしなかった。それよりも嬉しい気持ちが大きかった。


 そこには、事故で入院しているはずのお母さんがいた。

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