第二十二話 再び

「成程、そういうことだったのか。」


自身の推理がなぜ間違ったのか。阿黒賢一が指した『アルバスローカス』を見て、瞬時に理解する。


「真名さんも、もう少し時間があれば気づけたかもしれないね。」


真名慎太郎は少しの笑みを顔にあらわす。


「そうかもな。」


そう、時間さえあれば真名慎太郎はおそらく、いや絶対にこの謎を解いていたであろう。それこそあと3分もあれば。


「だが、今回は阿黒くんの勝利だ。」


真名慎太郎は自身の登ってきた階段を降りて、暗闇に消えていく。


「楽しかったよ。」


消えていく真名慎太郎の背中に向かって言葉を放った。





真名慎太郎を地下で待っていたのは他でもない陣間智久であった。


「お前が推理で負けるとはな。」


智久に会うなり真名慎太郎は頭を深く下げる。


「すみません。陣間くん。恩を返せなくて。」


真名慎太郎の脳裏に陣間智久とであった日のことがフラッシュバックする。





真名前慎太郎はこの世に絶望していた。


陣間智久と会う前の慎太郎という男は正義感が強い男であった。


つい先日まで慎太郎は警察官であった。若手ながら腕は確かで、生まれ持った頭脳を手に数々の事件を解決していった期待のエース。


だが、慎太郎は突き止めては行けない真相を突き止めてしまったのだ。上層部の者が隠蔽した殺人を。


その事を告訴しようとした慎太郎だったが、上層部のもの達によってもみ消されてしまった。そして、命を狙われることとなってしまう。


しかし、慎太郎は自身の卓越した頭脳を用いりその魔の手から逃亡をし続けた。


今まで自分が信じていた正義に裏切られた慎太郎は世界に絶望した。


そんな逃亡生活していた慎太郎の心は段々と荒んだいった。そんな心を埋めるかのようにギャンブルやタバコさらになケンカに明け暮れるようになってしまった。


そんな時にであったのが陣間智久であった。智久は慎太郎の才能を見抜き、自身のギャンブラーとして誘った。


最初の方は断っていた慎太郎だったが、何回も何回もお願いしてくる智久についに折れ、ギャンブラーとなった。


そして、聞いた。なぜ自分を必要としていたのか、智久の過去話など、余すことなく智久は慎太郎に全てを話した。


慎太郎はそんな智久の話に感銘を受けた。自分の命を賭けるに等しい人だと、この人の夢を見てみたいと。何よりも陣間智久は慎太郎の荒んだ心を救ってくれたのだ。


そして、自身の前に出された陣間智久の手を強く握り、専属のギャンブラーとなったのだ。





「すみません。」


悔しい気持ちを必死に押さえ込み、頭を下げる。


「そんなに謝るな。頭を上げろ。」


真名慎太郎は頭を上げ、陣間智久の目をしっかりと捉える。


「お前は良く戦ってくれた。今の俺たちじゃあ、力不足だったってだけだ。」


慎太郎の前に手を差し伸べる。あの時のように。


「だが、ここで立ち止まる俺じゃない。お前もそうだろ?」


そんな智久の姿はとても輝いて真名慎太郎の眼にうつる。


そして、無言で自身の前に差し出された手を強く握る。あの時のように、いや、あの時よりも強く。

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