第31話

「よくぞ戻ってきた!」

「無事、紅竜を討伐できたようだな」

「マジできつかったぜ……」

「早く風呂に入って惰眠を貪りたいぜ……」


 地上に戻ってきた英司達をバイゼルやゴート達が大きな拍手をもって迎える中……


「……クッ」

「運がよかっただけだろうが……」


 天川達は悪態をついたりと、およそ勝者を祝う雰囲気ではなかったが英司達はそれを無視して宿へと足を運んでいく。


「……やはり、お主らは子供だな」


 バイゼルは天川達に聞こえない声量でそう呟くと、英司達の後をついていくのだった。

 しばらくして、宿に到着した一行。


「よしっ、まずは風呂だ!」

「あぁ~明日は間違いなく全身筋肉痛だな~」


 そう言い、真っ先に風呂へと向かおうとする蓮と蒼衣。


「二人とも、少し良いですか?」

「「ッ!?」」


 そんな二人に、ソフィアがとてもいい笑顔で声をかける。

 蓮と蒼衣は驚きながらも魔法による強化でその場から逃げようとするが……


「なっ!?」

「水の鎖!?」


 死角から現れた水の鎖が二人を一瞬で拘束する。


「おい! 英司!」

「これ、お前の魔法だろ!」


 覚えのある魔力に二人が講義の声を上げると、英司は珍しく悪い顔で笑みを浮かべる。


「散々、揶揄われたからね。ちょっとぐらいは痛い目を見てね~」

「そういうことですから、二人とも。少し、お話をしましょうね~」

「「い、嫌だぁ!」」


 ソフィアに連れていかれる二人の絶叫が宿に響き渡ったが、英司達は当然無視して各々がしたいことに取り掛かる。


「英司、リーナよ。今から少し良いか?」

「僕は大丈夫です」

「私もです」


 了承した二人を連れてバイゼルは宿に設けられた自由スペースに足を運ぶ。

 二人が自身の正面に腰掛けたことを確認したバイゼルは話を始める。


「改めて、紅竜の討伐、おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「正直、かなりギリギリでしたけどね……」


 どこか遠くを見つめながら呟くリーナにバイゼルは苦笑を返す。


「呪いは無事、解けたようだな」

「はい、今は痛みもありませんね」

「いやー倒すとは思っていたが、まさか勇者が誕生するとは思わなかったぜ」

「勇者?」


 バイゼルの言葉に首を傾げる英司。

 その様子にバイゼルは「気づいていないのか?」と言いながら、ステータスを確認させる。


 ———


 名前:尾形 英司  称号:勇者 竜を超えし者


 力:C 防御:B 魔力:B 敏捷:C


 職業:聖騎士 魔法:炎、水、風、土、光、闇 スキル:【剣術】【魔導】


 真銘魔法:【聖域】【魔導偽書】


 ———


「え、称号? それも勇者って……」

「リーナ、説明していなかったのか?」

「は、はい……そこまで重要な事ではないと思ったので……」

「まぁ、確かにそうだな」


 そう言うと、天川達と同じ説明を英司に行うバイゼル。

 ある程度、聞き終えた英司の反応は……


「なんというか……あまり現実味のない話です……」

「まあ、いきなり「勇者だ!」って言われても困るしな」


 だが、それが事実であり、その証拠が英司のステータスには刻まれている。


「【魔導偽書グリモアル・フェイド】……正直、俺が見てきたどの真銘魔法よりも強力だぞ」

「魔法の創成……言葉では伝えきれない強さを有していますね」


 バイゼルとリーナが戦慄を隠し切れない表情で呟く。


「でも、その魔法の創成が凄く難しいんですよね」

「そうなのか?」


 バイゼルが思わず聞き返すと、英司は頷くと自身の新たな魔法について説明する。


「まず、魔法を創る際に必要なのは大きく分けて二つ、膨大な魔力とイメージです」

「ほう……」

「魔力の方は大丈夫なのですが、イメージの方が少々難しくて……」

「具体的には、どう難しいのだ?」

「そうですね……強い魔法とは?と聞かれて、どんな魔法が頭に浮かびますか?」

「強い魔法、か……」


 英司の問いかけにバイゼルは口元に手を当てて考える。

 しばらく考えるも、明確な答えを出せず「分からないな」とバイゼルは答える。


「そうなんです。魔法と一纏めに言っても千差万別であり、明確なイメージを持つのが難しいのです」

「明確なイメージが持てない……なるほど。だから魔法の創成は難しいのだな」

「えぇ、魔法の創成においてイメージはとても大事ですからね」


 得心した顔で頷くと、バイゼルは本題に入る。


「さて、お前達に時間を取ってもらったのはこれからについて話しておきたいからだ」

「これから、ですか?」

「あぁ、俺はお前達に他の『十大迷宮』を攻略してもらいたいのだ」

「え、どうしてですか?」


 今回の『奈落』攻略では炎竜の討伐しかしておらず、最下層にある【星女の剣】は手に入れていない。

 そのため、普通であれば他の迷宮の攻略に臨むとは考えられない英司とリーナだが、バイゼルが口にした理由に納得する。


「いや、今回の攻略で余計に天川達と関係が悪くなっただろ?」

「……あぁ、確かに」

「向こうが一方的に恨んでいるだけですけどね……」

「このまま一緒に攻略を続けると、いつか向こうが爆発して迷宮内で仲間割れになるかもしれないだろ?」


 バイゼルの問いかけに、二人は首を縦に振る。


「だから、お前達には別の『十大迷宮』を攻略してもらおうと思ったんだ」

「なるほど……」

「勿論、蓮と蒼衣にも話はするが……お前達はどうしたい?」

「僕は二人が同意してくるのであれば行きたいですが、リーナも同行させるのですか?」


 天川達はリーナの事を嫌悪しているわけではないので、自分達に同行させる必要はないのでは?と思い、英司が問いかける。

 それに対し、バイゼルはとてもいい笑顔で答える。


「英司と引き離したら、リーナは絶対に寂しがるからな~」

「ッ!?///」


 リーナは顔を真っ赤にしてバイゼルを睨むも効果はなし。

 その態度にリーナが魔法を用意し始め、バイゼルも応じようと言わんばかりに魔法を紡ぎ、一触即発の空気が二人の間に生まれるが……


「ん~そうでしょうか? 意外と無反応かもしれませんよ」

「……マジで言ってるのか?」

「え、あ、はい……マジで言っています」

「……リーナは茨の道を進んでいるようだな」

「……もう慣れました」


 英司のファインプレー(?)によって両者は魔法を展開を止める。

 バイゼルがリーナに同情の眼差しを向けていたが理由は分からないので放置して話を続ける英司。


「まぁ、リーナがいいなら僕達は大丈夫ですよ」

「お、そうか。なら決定だな」


 旅に同行する本人リーナの意志を全く確認せず、話を進めるバイゼル。

 「勝手に決めて大丈夫なのだろうか?」と、英司はリーナの方へと視線を向けると……


「……やった」


 とても小さな声で喜びながらガッツポーズをしていたので、大丈夫なのだと確信した。

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