第16話

「……で、それで? そんな感じで盛り上がって朝帰りだって?」


 昨日僕は、アズール寮でお風呂を楽しんだ。

 いや……、楽しみ過ぎた……。



 あの後、みんなで身体の洗いっこをして。

 それで、浴場で水泳大会を開いたんだ。


 魔法は禁止の水泳大会。

 もちろんみんな裸だけれども。

 先輩たちは、ハンデで背泳ぎをするって言い出して。


 そんな姿を見て、寮のみんなで大笑いしていた。


 その後は、寮長の部屋に行ったんだ。

 色んな魔法の話を聞いたり。

 アズール寮の人達とトランプをして遊んでいたら、遅い時間になって。

 そのまま、寮長の部屋で就寝。



 そして、今に至るという訳で……。



 先輩は、すごく怒っている。


 これは、やってしまったな……。

 こんなに怒られるとは思っていなかった。


 正座をして、ジャパニーズ土下座をするしかない。

 そんな文化がこの世界にあるかはわからないけれども。

 とりあえず、誠心誠意を込めて、土下座をする。


「ごめんなさい」



 先輩は椅子に座って、足を組んで、僕のことを見下ろしている。


「……で、何をしていたか、洗いざらい話してもらおうか? どんな悪いことをしてきたんだ?」

「い、いえ……。僕は何も悪いことをはしてないんです……」


 何をもって悪いことというのかはわからないが、先輩が思う悪いことって何だろう。


「まず、お前が帰って来ないっていうことで、俺の飯の時間がずれたんだ」

「えっと……、はい。ごめんなさい」


 そうか、怒るポイントはそこなのか。

 先輩、食には厳しいからな。


「この寮に来た時に、ご飯は一緒に食べるっていう約束しているだろ。寮っていうのは一緒の飯を食うところだろ」

「はい。すいませんでした」


「誰かと一緒に食べてこそ、美味しいだろう。俺が今まで、どんなに寮生を待ち望んだか」


 そうだったのか。

 先輩って、一人で住んでてマイペースに生きてそうだから、分からなかったけども。

 そんな一面があるのか……。



「そうそう、風呂に入りたいって言ったな? じゃあ、今日からは俺と一緒に、毎日風呂に入ろうな」

「えっ? い、いや、えーーー?」


「あいつらと入って楽しんだんだろ。俺とも入れよ。というか、俺の背中を流せよ」


 僕はまた、メデューサに睨まれることになるのか……。

 想像しただけで、身体が固まってしまいそうな気がする……。



「おい。なんで、固まってるんだよ。俺のこと嫌いなのか?」

「いや、そんなことはないですよ。もちろん……」


 ここで、『好き』って言うのは、なんだか違う気がして、言葉をそこで切った。



「じゃあ、今日は風呂の準備しておけな!」

「……はい」



「そんなこと何回もやっているようなら、寮の門限を決めるからな!」


「はい。そういえば、ここの寮って、やっぱり色んなルールってあるんですか?……と言いますか、先輩以外に誰かがいたことなんてあるんですか?」


 僕の言葉に、先輩の表情が一瞬曇った気がした。

 気のせいなのかもしれないけれども。


「まぁな……。この学園は、四方をモンスターたちに囲まれているようなもんだから、色々とルールを決めないと危ない。いつ命を落としても不思議じゃない……」


 先輩らしくもなく、どこか寂しい顔をした。

 僕がルールを破ったせいで、何か嫌なことでも思い出させてしまったのかもしれない。


 やっぱり、今後は気をつけないとだな。


「先輩、今後は気をつけますから、元気出してください!」


 僕がそう言うと、先輩は安心したように笑ってくれた。

 そして、椅子をおりてしゃがんで、僕と目線を合わせた。


「今年の新入生は、生意気だな! やっぱり、毎日一緒に風呂に入るぞ!」

「え、えーーー? それは、また別の話ですよー……」


 屈託なく笑う先輩。

 この笑顔を見れるなら、一緒にお風呂に入ってあげても良いかもしれないな……。

 ちょっと恥ずかしいけどね。

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