第3話

 校長のファイヤー・フラワー。

 まず、あんな魔法を唱えられるっていうことが、すごい。

 一回の魔法で、あれだけの数の火球を降らして、なおかつ、一つ一つも巨大。


 さすが、この学校の校長先生っていうだけはある。

 そして、その魔法を一瞬で無効化してしまう先輩たちも、相当な実力者。


 一番は、風魔法を使った先輩だ。

 校長先生の前に並ぶ四人の先輩。


 それぞれ、色が特徴的なローブを着ている。

 氷の大木を出したのは、青色のローブを着ている先輩。

 スラっとしたスタイルで、四人の先輩の中で一番身長が高いだろう。


 その隣は、緑色のローブを着た先輩。

 丸眼鏡をかけて、どうにも大人しそうといったイメージ。

 多分、重力魔法を使った先輩だろう。


 その隣は、赤色のローブを着た先輩。

 髪の毛がツンツンと逆立っている金髪をしている。

 ヤンチャそうで、この中だと少し身長が低めだな。

 多分、水魔法を連射していたのか、この先輩。


 そして、一番右端にいるのが、風魔法を使った先輩だ。

 他の先輩たちとは違い、ラフなローブ姿。

 ラフというよりか、ヨレヨレと言った方が良いかもしれない。

 ローブの中に来たシャツも、ヨレヨレで少し胸元が見えている。

 寝起きなのかというような、ぼさぼさな頭をしている。

 新入生の前に立っているというのに、緊張感無くあくびをしている。



 ここまでが、きっと校長先生の入学パフォーマンスだったのだろう。

 先輩たちが前に並ぶと、新入生たちは一気にがやがやとし出した。


「あの校長やベーな」

「先輩たちも、相当やベーぞ」

「俺、ここの魔法学園に入学してよかったかも」


 生徒たちががやがやうるさいので、校長先生は一旦壇上を降りて水分補給をしだした。

 あの大きな魔法を打ったというのに、ずいぶんと余裕そうに見える。

 校長先生の魔法のキャパシティは底が知れないな……。


 生徒の話しが終わった頃、一旦休憩していた校長が、また壇上へと上がってきた。


「こほん。それでは、続きと行こう。入学オリエンテーションとして、入寮の儀に入る」


 校長は威厳のあるようにそう宣言すると、また生徒たちはがやがやと騒ぎ出した。


「あれだろ、三つの寮のうちのどれかに所属するっていう」

「素質によって、寮を決めるんだよな」


 校長は、手を打ち鳴らして、生徒たちの話を止めようとする。


「はい。静粛にー。入学した生徒は、呼ばれたら前まで来るように」


 先ほど校長が言っていたように、生徒の制御は魔法の制御よりも数倍難しいのであろう。

 数百名はいるだろう新入生を制御するのは、骨が折れそうだ。



 そんな騒がしい中で、次々と生徒が呼び出されていく。

 呼び出された生徒は、校長先生と向かい合って何やら話しているようだった。


 この学校は、寮制度を取っている。

 国の中に何個か魔法学園はあるのだが、それごとに制度は違っている。

 多くの宮廷魔導師を輩出しているようなこの学園では、より魔法の力が身に着くように寮に所属することになっている。


 その中で、バディの先輩に魔法を教えてもらいながら、徐々に自分に合った魔法を身に着けていくんだ。

 先輩方も、後輩に教えることによって、魔法の上達を図っている。

 しっかりとしたカリキュラムがある学園なんだ。


 生徒は、三つの寮のいずれかに所属する。

 バディとなる先輩がいるけれども、先輩方も魔法に得意不得意がある。

 寮の中で教え合う形をとることで、いろんな魔法に触れていくんだ。


 寮によって、特色は異なる。

 魔法を使っていた先輩方が、おそらくその寮長なのかもしれない。

 寮の判定が終わったと思われる生徒は、先ほど魔法を使った先輩の前に並んでいく。


 ざわざわと騒がしい生徒たちから、色々と情報が出されていくのを聞けた。


「氷の具現化系魔法を使った青いローブを着た寮。あそこは、主に防御系を得意とするようなアズール寮だろ? 俺は、あそこが良いなー」

「いや、無数のウォーター・ショットを放っていた攻撃魔法を使っていたルージュ寮がいいだろ。主に攻撃系を得意とする寮だったよな。赤いローブがカッコイイし、俺はそこが良いなぁ」

「いやいや、わかっていないな。土の重力系を操るような魔法。主に補助系を得意とする魔法。それこそが、宮廷魔導師として使えるべきだろう。俺はヴェール寮がいいな」



 へぇー。各寮にそんな特色があるんだ。

 僕は、小さいころからテレビばかり見てて、全然この学園のこと調べてなかったからな。はは……。

 色々調べ始めたのは最近のことだったしね……。


 そう、他の新入生が言うように、三つだけしか無いはずだよな?

 もう一人の先輩は、何なのだろう……?

 まさか、部外者なんてことはないだろうし……。



 僕が判定されるときには、わかるかな。

 僕はどれに所属できるのだろうなー。

 世界を見て回りたい。

 宮廷魔導師の未開地開拓部隊。僕の目指す場所だ。


 出来れば、攻撃系の寮に行きたいな。

 もしくは、防御系でもどうにかなると思う。

 どの系統も、鍛えればある程度使いものになるだろうし。

 苦手な科目も勉強次第で、どうにか克服できるように。


 けど、得意とする系統があれば、そこを伸ばすのが一番良い。

 得意な系統だと、どこまでも伸びるだろうから。

 僕に、攻撃的な特性があって欲しいな。



 順番を待っていると、僕の名前も呼ばれた。

 他の生徒と同じく、校長先生の前にできている列の順番に並んだ。


 遠くからは見えなかったが、寮の振り分けは新入生の目を見て判断するようだ。

 校長先生が生徒たちの目を見ている。


「あれ、目の輝きによって、特性が見極められるらしいぞ」

「校長の特殊技能の一つらしい」

「そうそう、校長は、あれだけ大きな攻撃魔法を打っていたけれども、実は補助魔法の名手だって聞いたことあるぞ。この魔法国家の根幹を作り出した人らしい」


 ……そうなのか。


「今日来るときに乗っていたような、風の乗り物。あれの制御系を生みだしたのは、ここの校長先生らしいんだよ」

「そんな校長が見てくれるんだ。間違いはないはずだな!」



 そんなことが話されている間に、僕の番が回ってきた。


 補助魔法っていうのも、良さそうな気がしてきたが、できることなら攻撃魔法がいいな。

 ルージュ寮でお願いします……。


 心の中で願って、目を大きく開く。


「……うーむ。君は、なかなかに、良い才能をしている、将来は、多くの魔法が使えるだろう。どこでも好きな場所が選べそうじゃが……。どこにしようかのぉ……」

「それなら、俺の所へ来いよ」


 赤色のローブを着た先輩がそう言う。

 やっぱり、赤色ってカッコいい。

 僕の憧れの道だ。


「うちも人手不足だぞ。こっちに来てくれた方が助かるっていうもんだ」

「待て待て、ここの校長もそうだが、補助魔法があっての魔法国家だぞ。才能はこっちに使うべきだ」


 三つの寮の先輩方の間で、僕の取り合いが起こっている。

 僕って、やっぱり才能があったんだな。

 僕が選んでよいのであれば、迷わずにルージュ寮。


 悩んでいる校長に対して、どこの寮か分からない黒色のローブを着ている先輩も声をかけた。


「それなら、校長。うちに入れてくれよ」


 口ぶりからすると、三つの寮以外なのだろう。

 この人は誰だろう?


 寮長は、寮長のマントというものをしている。

 それぞれの寮のシンボルマークがあしらわれたマント。

 それを、着けているようだけれども。

 寮は三つしかないはずなのに。


「才能の塊っていうなら、俺のところへ来るのが一番だろ?」

「まぁ、それもそうじゃが。正式には認めておらんのじゃがのぉー」



 校長と黒色のローブの先輩が話し込んでいる。

 どういうことだろう。


「そんなヤツは、俺じゃなきゃバディは務まらないだろ」

「まぁ、良いじゃろう」


 校長先生と話しがついたのか、黒色のローブの先輩が僕を迎え入れてくれたらしい。


「お前、名前はなんて言いうんだ?」

「僕は、ヴァイスと言います」


「そうか。俺は、シュバルツっていうんだ。よろしくな!」


 嬉しそうに笑って、手を差し出してくる。


「えっと、はい。よろしくお願いします」


 僕は先輩と握手を交わした。

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