Q. カードゲーマーは星の救世主になれますか?

上殻 点景

突然の置換(1)

 【宇宙決闘法】

 ────宇宙に文明が出来て早数億年。

 銀河同士の戦争は苛烈になり、銀河治安は脅かされつつあります。

 そこで制定されたのが、喧嘩両成敗もとい【宇宙決闘法】

 8つの条約からなるルールは、迅速な問題の解決を促します。

 銀河に刻まれているので、辺境の惑星でも安心です』


────────────────────



 「いや、どこだよ。ここは」


 目が覚めたら、知らない場所。

 周りには、様々な計器。

 画面の外には、映像で見たような宇宙。


 (まるで、宇宙船の中みたいだな)


 いやいや、俺の最後の記憶は、

 友人と遊んでいて────


 「俺の勝ち、お前は無価値ッ」

 「なんや、上引きだけのカスがよォ」

 「ジャン負けはプレミ定期」

 「なら、負け先ヨコセや、カスがァ」


 ────最高の記憶だ。


 カードゲームで友人をいたぶってた所までは覚えている。


 だが、どうして知らない空間に?


 「アンタ、人の船に堂々と乗っているとはいい度胸ね」

 「えっと、どなた?」


 振り向いた先には────金髪の少女。

 俺に向けられているのはよく見る機械バーコードリーダー


 「あれ、機械が読み取らない?」


 ────黒髪黒目人気クローン顔の癖に、コードレスとは珍しいわね。


 (コードレス?なんだそれは)


 「通じてるかどうかは分からんが」


 ────俺の名前は、坊主 ぼうず金太郎きんたろうだ。よろしく。


 とりあえず、握手を求めてみる。


 友好的な動きをしとけば多分大丈夫だろう。


 「密航者の癖に、慣れ慣れしいな」


 どうやら言葉は通じているようだ。


 「ところで、ここはどこだ?」

 「どこもなにも、我が愛船【銀河隼ギャラクシーファルコン】ですが」

 「凄い名前だな」 

 「当然です。重力エンジンを積んだ私の船は」

 

 ────宇宙一は────言いすぎですね冥王星一ぐらいは速いですから


 「冥王星って、星の」

 「そうよ。まじか、先居た星すら知らない?」


 いや、冥王星に居たつもりは無いんだが。


 「すまん、広島の江波って分かるか」

 「どこですか、それ」

 「じゃあ、日本」

 「知らないです」

 「地球とかは」


 「チキュウですか。ああ、それなら知ってますよ」


 ────ずいぶん辺鄙な所から来たんですね。


 「辺鄙な所......なのか?」


 スピーカから音が聞こえる。


 [ザザ...現在、タイムトラベルに成功した....ザ]

 [勇敢なるキンタ=ロ・ウボウズは、天の川において「プチ」────]


 少女はスイッチを切る。


 「世間は時空転位タイムマシン成功で賑わってるってのに、私は密航者と相手とは」

 「密航したつもりはッ────」


 体を震わす、爆発音。


 「なんの振動だ?」

 「探知機レーダーに反応────おまけに海賊と来た」

 

 操縦席に座った少女は悪態をつく。


 [ヒャッハーッ、暗礁経路なんぞ使ってんじゃねぇ]

 [ここは天下の海賊様の縄張りだァ]

 [通りたきゃ、金目の物をよこしなァ]


 スピーカから声が聞こえたと思えば、再び爆発音。


 各計器から音が鳴る。


 「なんか、マズくないか」

 「どう見てもピンチでしょうがッ」


 船体が────

    ────左右に揺れ


 「ちっ、振り切れないかッ」


 [へへへッ、おとなしく荷を置いてくんだな]

 [そうすりゃ精神ぐらいは]

 [ゴミ箱ジャンクヤードには飛ばさないでやる「ピッ」────……]

 

 少女は赤いスイッチを切る。


 「煩い連中よね全く」

 「でも、どうするんだ?」

 「─────密航者は、ちょっと黙っててッ」

 

 ちん/もく


 「ああ、この手は使いたくなかったけど」


 少女は赤いスイッチを再び押します。


 「聞こえますか、海賊クズども」


 [おいおい、女かよ]

 [積み荷の準備か?]

 [それとも、俺達にサービスでもしてくんのか]


 スピーカからは呑気な声が飛ぶ。


 「まさか────【宇宙決闘法うちゅうけっとうほう】を申請ッ」


 [[[おいおい、正気かッ]]]


 向こうから驚いた声が聞こえる。

 だが、彼女の声は真剣だ。


 「宇宙決闘法第一条ッ────」

 [面白い女だ────ライフが0となった者は敗北となる]


 [「この決闘に一切の偽りなしッ!!」]


 熱の入った声は、船体を突き抜け。

 銀河に叫び声として、木霊こだまする。


 『【宇宙決闘法】承認されました』

 『賭けの対象をお選びください』


 「対象は、奴らの船────」

         [────積み荷と女だ]


 『等価であることを承認』

 『それでは、良い決闘を』


 目の前の操縦席コクピットが変形。

 少女の手元には、光るフィールドが形成される。

 

 虚空から、配られた札は5枚。


 (ポーカーにしては、絵柄が違いすぎる)


 とすればボードゲームの一種か?


 「先手は、速度の速い方がもらうわよ」

 [いいぜ、それぐらいはくれてやる]


 操縦棒レバーが倒される。


 「私のターン────エネルギーを増加」


 計器のランプが1つ灯る。


 「そして、ターンエンド」


 手元で光る5枚のカードを見て、

 少女は動かない。


 [おいおい、正気か]

 [あいつ手札詰まってるぜ]

 [皆、笑ってやるな。失礼だろぅ]


 「好きに言ってなさい」


 [ならば、こっちは速攻で行かせてもらうぜッ]

 [エネルギーを使い、我がしもべ共ォを召喚ッ]


 海賊船の周りに現れるは、異形の化物たち。


 「ちっ、やっぱり黒-速攻デッキか」

 [海賊仕込みの速攻を見せてやるぜ]


 化物どもが襲い掛かり。

 船体が揺れる。


 画面の体力ライフは残り17。


 「速攻デッキ……」


 少女の発言を思い出す。


 先手後手、カード、エネルギー、体力ライフ

 全部を纏めて考えると────カードゲーム。

 

 (だが、札を見る限り、知っているモノじゃない)

 

 まあ、知る知らないより問題があるな。


 彼女に勝利に、俺の命運もかかっているってことなんだが。


 少し頭が痛いな。


 ◇◆◇


 『8ターン目です』


 少女の顔に焦りはない。


 [このアマ、粘性スライムをチマチマ出しやがって]

 [さっきから、俺たちの軍団と相打ちだとォ]

 [生意気なアマだぜ]

 「悪いけど、母粘性マザースライムがいる限り子粘性は増えるわよ」

 

 ────海賊で流行りの黒-速攻に、突破する手段は無いでしょ。


 「この勝負貰ったわ」


 盤面は4 vs 3。

 数の上では優勢。


 [けっ、馬鹿が]

 「なっ、私の母粘性マザースライムが」


 無残に溶けていく母粘性マザースライム


 黒-速攻に破壊手段はないハズ。


 [最近、貴様のようなヤツが多くてなァ]


 コイツは流行りの粘性デッキを殺す為に作られた最強の黒-速攻

 ────確定除去入り3エネルギーの速攻だ


 [守っりゃ勝てるとでも思ったかぁッ]

 「だけど、盤面には3体の子粘性がいるわ」


 あんたのライフは3────殴ったら勝ちでしょ


 [おいおい、殴ってもいいのかなぁ]

 [お前のライフも3]

 [俺たちの3エネルギーが見えないのかぁ]

 

 さっきの除去は3エネルギー


 「ちっ、厄介なことを」


 下手に除去を食らうと、相手の攻撃を防げなくなるか。


 「ここは殴らず────」

 「いや、攻撃するべきだ」


 「なによアンタ────密航者のくせに」

 「生憎、ルールもカードも知らんが」


 ────思考回路ロジックなら知っている。


 「除去があるなら、さっき使ってる」

 「引かれてるかもしれないでしょ」

 「なら運が無かったまでだ」


 密航者は、真顔で話す。


 「正気?ライフが0=死よ」

 「どうせ除去あれば死ぬだろ。なら────前のめりに死ぬべきだ」


 密航者のくせになかなか肝が据わってるじゃない。

 

 いや、切り札を破壊されてビビってたのは、私か。


 「────面白い、乗ったわッ」


 総員、全軍突撃フルパン


 [んな、あのアマ、全攻撃してきましたぜ]

 [もしかして1枚だけピン差しってのがバレたんじゃ]

 [おい、馬鹿ッ。余計なことを言うな]


 口角を上げる。


 「いい話を聞いたわ────覚悟はいいかしら」


 [いやー、すんません]

 [ゴミ捨て場ジャンクヤードだけは許して]

 [他の奴らは売ってもいいからですとも]


 「大丈夫、全員売り飛ばしてあげるわ」

 [[[ヒェッ]]]


 予想外のお金も入ったし。


 勝ちに免じて密航者は許してあげましょうか。


 ◇◆◇


 金髪少女には、なんだかんだ許されたな。


 (正直、海賊みたいに売り飛ばされなくてよかった)


 ボタン一つで人が消えるのは、怖すぎるぜ。


 「もうすぐ、星に着くわよ」

 「もしかして、地球かッ」

 「なに言ってんの、アンタの星じゃなくてワタシの星」


 ────名前は、銀河第13番惑星「イース」。


 私の故郷がある星でも有り。

  

 「絶賛、世界戦争中の星よ」


 「冗談だろ」


 画面に広がるのは────水の惑星。

 

 奇しくもその星は、地球と似て非いなるモノだった。

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