第4話 昔話

「生前のおふくろは三石大学の教授で、一生涯『精霊の力』をめぐって研究を行っていた。この資料の執筆者はおふくろだけど、オヤジがこの資料を読める時、おふくろはとっくに天国にのぼった。」


「彼女の話によって、やってる研究はこの世界まで変えられるものなんだ。最初の目的は抑えではなく、実用だった。だから、たくさんの人体実験を行ったらしい…」


「ドクター!3組の実験はもう終わりました!推測の通り、322番は支配者だ!」と、白衣を被っている補助員が実験室から飛び出してメガネをついている石井和子に報告した。


「その子か。それも当然だね。『精霊の力』がなかったら、その子は一生目覚めないだろう。これは重要な結果だよ、これからもっとの支配者が出るかもしれない。」


石井教授はドアを叩いて、「322」と書いてある部屋に入った。


「322、起きている?」


真っ白の部屋の一隅、布団の中に縮こまっている322の小さな姿がはっきり見えた。


「起きている。」冷たい返事。


ベッドに座って、軽く石井教授が322の肩を叩いてみた。振り向かずに、322は窓から何を見据えているらしい。


「何を見ている?」


「なんでもない、ドクター。」


「今日はいいこと教えてあげる。」


「支配者になったこと、もう聞き飽きたわ。ドクターはもう四番目だ。」


「それ何を意味するって知っている?」


「私、ドクターの実験動物として一生ここに生きる。違ったか?」


空気は凍り付いた。しまった、全然会話できない。コントロールできない実験動物は死神と同然だ。こうなると排除しなきゃ。と言っても実験をこんな理由で失敗させたくない。ちょっと頑張ってみよう。


教授はいい顔をして、「そんなことないよ、実験が終わるとすぐ自由にさせるよ。」と言った。


「その前私は死んじゃうだろう。」


いちいち口答えすんな!、と心にはそう思っているけど、笑顔は変わらないままで。

でも、こんな悪質な性格は322のせいではないのを、石井教授は一番分かっているんだ。


この子の体に今宿っているのは『精霊の力』によって作られた人格。元の人格はまだ眠り続いていて、いつか起きるかのは分からない。たぶん、起きるその日もないんだろう。


本名を使わずに、「322」のような適当な番号で呼ぶのもこのためだ。それより、石井教授も322の本名を知らない。人に侮られたように毎日「322」なんて呼ばれて、やはりいい性格も養えないだろう。


322の実験はそれから進めない状態だったと言っても、日常の会話と322の行動から見れば、いろいろ面白い結論が下せると教授はそう思っていた。


初めては322は元の性格を失った同時に、何らか自分らしい新しい性格を自発的に形成しつつ、かなりゆかしいタイプと見えるんだ。前の冷たさは人格崩壊にもたらされた悪影響の一つの可能性が高いとみなしている。


または、支配者としての322は、ゆかしい性格と正反対で、測れないほど危険な力が持っていると分かった。意識によって暴力傾向を示すかどうかは今さら明らかにしていないけど、教授の推測は否定のほうだ。これもこれからの研究の重心と教授はそう望んでいる。攻撃性を抑えできれば、『精霊の力』を生かすのも遠くない話だろう。


そして、意外のことが起こった。


実の原因は未だ不明だが、人為的な放火の可能性が僅かで警察方面にも意外と見なされている火災だった。


人道主義で三石大学の研究所に閉じ込められた実験体は全部放出されているのはともかく、多くの資料や研究成果は焼いてしまった。


あれから一年ぐらい、三石市市内、「都心暴走」が起きた。支配者と精霊の力と深い関わりがあると敏感に察して、石井教授の考えも一変した。あの時点にも、活用から抑えに完全に変わっている。


警察方面と共に努力し、そして「『精霊の力』と犯罪における利用」一文を書いてしまった。あれは教授の心血を注いだ最後の作品だったけど、公開発表のは死後の話だった。


「おふくろは、調査をやっている時、狂った人間に殺されたんだ。」


「病院に運ばれた時もう息が止まったそうだから、最後の一面は会えなかった。」

憂いの顔をしている石井は僕の視線を避けてぼうとしている。


人の慰めが苦手の僕は何も言わなかったのは、その場合、黙り込みの方が助かると思ったからだ。


「あの時、僕はもう神に、おふくろに誓った、俺は322を殺す、この手で殺す、絶対。」拳を太ももに何度も当てて、急に立ち上がった石井は僕に手を差した。


「俺の力になれ、お願い!これは俺、最初で最後の願い事だ!」


その手を痛いほど強く握り締めて、僕も立ち上がった。

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