第16話 手紙
「ハル~、空調ちょっと強くして~」
「承知いたしました、お嬢様。」
イズミールダンジョン深度500帯の死闘から数日が経過した。
我らがヒカリお嬢様は、今日も今日とて万年床にぐでーんと身を投げ出し、足をパタパタさせながら少女漫画を読みふけっておられる。
その毛糸の靴下、今日で何日目でしたっけ?
魔女とか言ってても、オフの日はこんなもんですわ。
まあ、かく言う私もこうして優雅にスマート家政ゴーレムの真似事をしているので、お互い様ではある。
「おや?お嬢様、DMが届いております。」
「んー?なぁに、ハル?読み上げて~」
DMの差出人は…ふむ、探索者協会か。
となると、要件はアレかな?
「承知いたしました。ええと、なになに…ああ、お嬢様が先日攻略された、イズミール第3暫定ルートの納品トロッコ路線延伸のお知らせですね。」
納品トロッコと名は付いているが、なにもその往路が空荷である必要は全くない。
安全のため、またダンジョン内環境の保全のために、極力壁裏の配管スペースを利用して敷設されたトロッコ網は、ダンジョン内からの納品のみならず、外部から取り寄せた補給物資の運搬や、ダンジョン内部の移動手段としても大いに活用可能だ。
無論チャーター便となる為、それなりに値は張るのだが、まあお嬢様の稼ぎからすれば端金と言ってよい。
確定申告の時に経費計上できるしね。
そして、そのトロッコ路線の延伸に必要不可欠なのが、線路とダンジョン構内を結ぶ昇降口、通称駅の設置地点の選定だ。
下手な場所に穴をあけて、アタッカーに線路内に侵入でもされよう物なら目も当てられない。
そのため、お嬢様のような攻略組は、ある程度の距離を進むごとに、探索者協会に対してトロッコ停車地点の候補地を提案しており、これが協会の稟議を通れば、晴れてそこがトロッコ網の次なる終着点となる。
こうして生まれた新たな駅が、ダンジョン利用者全員で共有可能な次の探索スタート地点となるわけだ。
「安全性を認められたのは、あの恐竜型ディフェンダーが配備されていたポイントのすぐ先ですね。無事、再配備前に駅舎を設置できたようです。」
「おっ!マジで?じゃあもう、サーベルトゥースと恐竜野郎の対策装備は積んでいかなくて良さそうだね!」
お嬢様は早くも次回探索時の装備プランを練っている。
前回はサーベルトゥース対策のバックラーが、たまたま恐竜型にも有効だったが、あれは基本的には使い所の限られる特殊装備だ。
未探査エリアを手探りで進むとなると、両肩に火器を積むか、もっと連続出力時間の長い電磁シールドを持って行った方が対応力は上がるだろう。
ウォッチャーの配備状況にもよるが、場合によってはパルスミサイルも下ろしてしまっても良いかもしれない。
未知のガーディアンに遭遇した場合、どのパーツのグラム単価が高くなりそうか、吟味のために損傷のない状態で腑分けする必要がある。
「いずれにせよ、当分は生存性重視のセッティングで情報収集をすべきかと存じます。協会からのインセンティブ振込も確認できましたので、別の口座に移される場合はお申し付けくださいませ。」
「はーい。まあ、とりあえず資金移動はいいや。どうせ筐体の修理代でトントンだろうしー」
漫画を一冊読み終えたお嬢様が、枕元に置いたポテチの袋に手を伸ばす。
ああ、そんな姿勢で手を伸ばしたら…
あっ!やっぱりひっくり返した!言わんこっちゃない!
ジタバタしないで下さい!ポテチが砕けてゴキブリの餌になるでしょ!
服で拭くな服で!油まみれの手で本を触るな!あーもう!ほんとにもう!
…おや?
「お嬢様、お取込み中に失礼いたします。もう一件DMが届きました。差出人は…株式会社ゴールデンドーンとありますが、開封いたしますか?」
「あばばばば、ポテチが!ポテチが隙間に入った!え、DM?読んで!」
はいはい、ただ今。
しかし、ゴールデンドーン社か。
聞き覚えがあるような、無いような…?
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