第6話 旅立ち
今日は特にすることも無い、ということでシャウス率いる魔物の群は森の中へと帰って行った。
「ってことで、一件落着だね!」
「う、うん」
「そう、みたいだねぇ……」
◇◇◇◇◇
ほっほっほっほ。
なんだか凄いことになってしもうたのう。
「魔族をテイムするなんて……本当に魔王になっちゃうんじゃ」
「やめてよリュウ!」
「ご、ごめん」
まぁ、これで彼の身の安全は保障されたも同然じゃ。
お前たちも心置きなくここに
「いや、色々と心配ですよ。教会のこととか」
ふむ。
確かに異端者認定されたらタダでは済まんじゃろうな。
「それじゃあ、元も子もないじゃないですか!」
安心せい。
そうならないよう、ほぼ真っ黒なグレーゾーンをついてワシが手を加えといたわい。
「それってアウトなんじゃ……」
◇◇◇◇◇
「それで、この男はどうする?」
魔物が去った村ではハリヴの所罪について再審議が行われていた。
中央都市までは距離もあるし、往復の賃金を考えると、この男を輸送するためだけに金を使うのは非常にもったいない。
そんな理由から審議は難航していた。
「僕、中央に行ってみたい!」
マックは、昔、母から聞いた話を思い出していた。
当時、まだやんちゃだったリンダは村での日々に飽き、勢いだけで中央都市に行っったことがあったらしい。
街は見上げるほど大きく、毎日がお祭り騒ぎのように彩られていたと。
その話を聞いたマックも幼いながら中央に憧れを抱いていた。
いつしか母と交わした
残念ながら一緒に行くことは叶わなかったが、母が見た景色を自分も見たい――そんな気持ちが芽生え始めたのだった。
「まったく……親が親なら子も子だな。良いだろう。中央への遠征を許そう」
「本当!? ありがとう村長!」
「ただし、条件がある。それはイザベルも同行させるということだ」
「ええっ、アタシ?」
嫌そうなイザベル。
「よろしくね、イザベル!」
「ああ、うん。よろしく……」
彼の笑顔に勝る魔法は、この世に存在し得ない。
やがて中央都市から引き渡しの書状が届き、数日後に護送用の馬車が到着した。
「こんな幼い子は同行させられません」
村に来た留置係の騎士は、馬車に乗り込もうとするマックを見ると村長に告げた。
「森で魔物には会いませんでしたかな?」
「いえ、全く」
「それはこの子のおかげなのですよ。面倒だから説明は省きますがね」
彼らは森で魔物に遭遇しなかったことを大層気味悪がっているようで、訝しげに首を傾げている。結局、子守りもつくということで、護送馬車に乗ることが許された。
「お土産よろしくね」
「うん!」
村長が二人分の宿代と少々のお小遣いをマックに渡すと、隣に座っていたイザベルが「私にもくれよぉ」とねだった。
「マック、イザベルを頼むよ」
「任せて! それじゃあ行って来ます」
まったくどっちが子守りをする側なのか。
馬車が村を出て二時間ほど経った頃、食事休憩となった。
手綱を持つ騎士二名は馬の世話をし、マックとイザベルはそれぞれ持参した弁当を食べる。
「それ、サティの手作りか?」
「うん。村を出る時に貰ったんだ」
「へぇ……」
ニヤニヤと顔を覗き込んでくるイザベル。
「どうしたの?」
「いいや。こりゃ、サティも苦労するなと思ってな」
「さっきから何のこと言ってるの?」
一〇歳にしてはあまりにも鈍感、というか無関心というか。
そういった面では少し心配にもなるところだ。
「飯だ、ハリヴ・スピング」
「……」
ハリヴは何も発することなく騎士から硬いパンを受け取った。
騎士の話によると、彼は貴族としてもかなり評判が悪く、中央では
「彼に関することで未だ調査中の事件も多いんだ」
「ちなみに、どんな事件なんだ?」
「子どもの前では言いたくないな。まぁ女性絡みとだけ言っておこう」
余罪はまだまだ多そうだな。
やがて小休止は終わり、再び中央に向かおうと動き出した時、騎士が背後からとてつもない魔力を感じた。
「全員降車しろ!」
「君、その子は任せるぞ」
騎士はそう言ってイザベルに剣を投げ渡すと、馬車の後方へ回り込み、警戒心を強めた。それは滅多に感じることのできないほど強力な気配。恐らく魔族、それも天災級のデーモンと思われる。
「あ、ちょっと待ってください」
「動くな少年!」
魔法陣から現れたそれの正体は――。
「マック殿、ご報告が――ってこれは一体何の騒ぎですか?」
「く、来るな魔族め!」
「騎士さん……大丈夫ですよ。彼は僕の友達ですから」
「「と、ともだちぃ?!」」
かくかくしかじか。
「そういったことは先に説明してください!」
「村長が言わなかったのが悪いよ。僕のせいじゃないもん」
間違いなくマックの言う通りである。
「それで、報告って何?」
「ああそうでした」
シャウスは改まって地面に片膝をついた。
「森の中に、この馬車を狙っている者たちがいます。確認している限りは、人族が六名と獣人族が一名、総勢七名です」
「盗賊かな?」
「いえ、動きに統一感があることから恐らく手慣れの傭兵かと」
話を聞いていた騎士は「それが本当なら、この人数では勝ち目がない」と早期の脱出を試みようと考えていた。
「シャウス、任せられる?」
「当然可能です」
「殺しちゃ駄目だからね!」
「御意に」
シャウスは軽く会釈をしてから魔法陣に沈んだ。
「何が何だか……」
あんぐりと口を開ける騎士の姿に、「分かるぞ、その気持ち」といったように頷くイザベルであった。
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