第五十七話 新しい武器を作ろう! その4

 打ち上げられたマグマは空で折り返し、矢となってオレ達に降り注ぐ。


「自分で躱せるな!? 犬っころ!」


「誰にモノを言っている!」


 強化の魔力を脚に纏い、オレはマグマの矢を飛んで躱す。


 巨岩の上に着地。ガラットもオレと同様に魔力を纏ってその場を離れていた。

 ガラットは壁を、地面を足場に跳ねまわる。かろうじて動きは追えるがその速度はシュラに匹敵するほどのものだった。


「やるじゃねぇのアイツ」


 犬になる呪い……呪いによって得た祝福でも作用してんのかな。


 マグマロックは反応できていない。

 マグマロックの背後を取ったガラットは強化の魔力の上に、形成の魔力を纏った。


「“我が身、滝牙竜ろうがりゅうとなりて敵を討ち滅ぼす“!

 変化術へんげじゅつ、《水竜仙すいりゅうせん ・つぼみ》ッ!!」


 渦巻く水の衣がガラットを包み、ガラットは水流の中に姿を消す。

 水の衣は顎を作り、牙を作り、翼を作る。その姿はまさしく竜――水竜はマグマロックの後頭部に噛みついた。


「浅いな……!」


 水竜の牙は岩の表面を削るだけで芯には届いていない。

 マグマロックの全身から魔力の気配。


 やばいな、反撃が来る――


「【ちょこまかと……!】」


「ぬぅ!?」


 マグマロックは後頭部に噛みついた竜に、全身から噴き出したマグマを浴びせる。

 水の鎧は簡単に蒸発し、ガラットが剥き出しになった。


「よもやこれで仕留められんとは……!」


 空中で怯むガラットにマグマロックの岩石の右拳が迫る。


「あのバカ犬!

――アシュッ!!」


「《アクアシューター》」


 アシュの両手から放たれる二本の水の槍。

 水の槍はマグマロックの両ひざ裏に激突。マグマロックが一瞬動きを止めた。


 オレはその隙に赤の魔力を溜め、マグマロックの正面に飛び込み、ガラットを抱きしめ反対側の岩山の上に着地する。


「助かったぞ!

 後で吾輩をモフる権利をやろう!」


「そりゃあっちの金髪女子にくれてやれ!」


 マグマロックの拳がオレ達の立っている岩山に激突する。

 オレとガラットは同じ方向に飛び上がり、空中で会話を交わす。


「貴様、副源四色はなんだ?」


「オレは黄色。

 アシュは黒だ!」


「吾輩は黒である。

 火力は十分だな。奴を転ばせ一気に最大火力で叩くぞ!」


 オレとガラットは地面を滑りながら着地、マグマロックの背後を取る。


「隙は吾輩が作る!

 貴様はその内になんとか奴を転ばせろ!」


「オーダー了解!

――アシュゥ!! 前に練習した連携技やるぞ!」




「りょーかい」


 ガラットが形成の魔力を解放し、眼に見えるほどの緑の魔力を地面より立ち上らせた。


「“冷気よ、我が身かたどりて幻を生め”!」


 湧き上がった魔力は冷気となりガラットの形を作る。


「“百花繚乱。潤え、乾け、塗色としょくせよ”!

 変化術、《水彩練舞すいさいれんぶ》ッ!!」


 犬の形をした冷気に色鮮やかな水彩が成され、ガラットと同じ色・形をした分身が無数に作成された。


「【うざったいなぁ! もうっ!】」


 マグマロックを囲むガラットの群れ。分身が次々とマグマロックの視界を塞ぎにかかる。


「ナイス陽動ッ!」


 オレはガラットの分身の影に隠れながらアシュと合流することに成功した。


「行くぞアシュ!」

「うん」


 二枚の札を手に取り呪文を口にする。


「ルッタ封印close

 獅鉄槍、解封openッ!」


 短剣を札にしまい、伸縮自在の槍を右手に装備して矛先をマグマロックに向ける。

 同時にアシュがオレの手元の槍に杖を掲げた。


「色装、“漆”」


 黒き光が獅鉄槍の先端に灯される。

 獅鉄槍+黒魔力、矛先が漆黒の槍の出来上がりだ。


 オレは形成の魔力と強化の魔力をありったけ槍に込める。


「くらいやがれ!

――《呂色凶槍(ろいろまがやり)》ッ!!」


 槍を伸ばし、横に一閃。黒の閃光がマグマロックの足元に走る。


「【いだああああああああいいっ!!!??】」


 両足の岩石を裂かれ、地面に転び落ちるマグマロック。

 マグマロックに二つの殺意が向けられる。


「色装、“漆”。

――《呂色豪水ろいろごうすい》」


「色装、“漆”ッ!

――変化術、《黒竜仙こくりゅうせん花開はなびらき》ッ!」


 アシュは水の槍に黒の魔力を纏わせ放つ。

 ガラットは黒の竜に変化し、マグマロックに向かう。


「【させるかぁ!!】」


 マグマロックは全身から煙を噴出して身を隠す。アシュとガラットの攻撃は黒煙によって惑わされ、狙いを外されたがなんとかマグマロックの肩を狙い、両肩を消し炭にした。


 さすがに人魔、一筋縄ではいかないか。

 だが、両腕両脚を失って奴はもう身動きが取れない。


――これは貰ったな。


「今だ不埒者ッ!」


「シール!」


 直進し、マグマロックにギリギリまで接近する。

 両脚、両腕を失ったマグマロックにオレは黒の魔力が灯ったままの獅鉄槍の矛先を向ける。


「とどめだ!」


 マグマロックの顔面目がけて槍を伸ばす。

 なにもできず、槍を見届けるしかないマグマロック。伸びた槍の矛先がマグマロックの顔面を貫く――直前で、



「【どいつもこいつも、鬱陶しいんだよおおおおおおおおおおっっ!】」



 マグマロックの全身に灯される――黒き魔力。


「そうだった……コイツは黒魔こくまを――!」


 獅鉄槍の矛先は黒の魔力と激突し、弾かれた。

 

「まずった!

 ガラット! アシュ! 距離を取れ!!」


「【僕ちんを、よくもいじめてくれたなぁ!!】」


 マグマロックが全身に黒の魔力、破壊の魔力を再び纏う。


 そのまま臀部からマグマを噴射し、全身でのタックルを繰り出す。

 マグマロックが焦点を合わせるは――一番機動力の無い、アシュだった。


「ま、まずいかも……」


 しまった! アシュは大技を繰り出したばかりで術を出せないっ!


「――ッ!

 小娘!!」


「アシュッ!!」


 オシリスオーブの解封……間に合うか!?


「なぬ!? この匂いは……!

 後ろだ不埒者!!」


 ガラットがオレの背後に向けて叫んだ。


「は?」


 オレは背中に凄まじい悪寒を感じ、札を取る手を止めた。


「なん、だ?」


――この馬鹿げた魔力圧は……!


 目の前の出来事を全て忘れてしまいそうになるほどのプレッシャー。

 助っ人? 新手の敵?

 後者だった場合、オレは間違いなく命を落とすだろう。気配だけで勝てないとわかる、それほどの存在感を背後から感じる。


 それを感じたのはオレだけじゃ無かった。


「【――ッ!?】」


 マグマロックがオレの背後を見て、突進をやめた。




「どけ」




 若い、男の声。


 オレが後ろを振り向くと同時に、影はオレの側を走りぬけた。

 オレは影の背中を追う。


 影の正体は砂色のフード付きのコートを羽織った人間だった。


「人間……」


 ってことは味方か?

 乱入者は今にも壊れそうな錆びた剣と、緑の宝珠が埋め込まれた杖を腰に差しており、腰から錆びた剣を右手で引き抜いた。


 あんな見るからに切れ味ゼロの剣でなにを――つーか、奴が纏っている黒魔が見えないのか!?


「待て! いまそいつに近づくのは危険だ!」


 オレの叫び声などお構いなしに乱入者は前へ進む。

 乱入者は左手に白銀の風を纏い、風をマグマロックに向けて解放させる。



「……“白銀の旋風ヴァトル・スレブロ”」



 巻き起こる鉄の破片が混じった旋風。

 白銀の風はマグマロックに接触すると、黒魔を火を吹き消すが如く消し飛ばした。


「馬鹿なっ! 黒魔をいとも簡単に――」


魔術で飛ばしやがった……」


 オレとガラットとアシュは、突如現れたその男の行動に反応が追い付かない。


「“岩滅がんめつ”」


 乱入者がなにかを唱えると、乱入者の手元にあった錆びた剣が姿を変え、大剣になった。


 コートの色と同じ砂色の大剣だ。

 その大剣からなにを感じ取ったのか、マグマロックが明らかに焦った様子で黒魔を纏った頭突きを乱入者に繰り出す。


「避けろっ!!」


 オレの忠告を無視し、乱入者は剣を持っていない左手の人差し指と中指を揃え、前に突き出した。


「いっ!?」


 オレは咄嗟に目を細める。黒魔に指が溶かされる、そんなグロい光景が広がると思ったから、反射的に目を細めてしまった。


 だが、瞼を開いた先に広がっていた光景はオレの想像とはまるで違った。


「嘘だろ……!?」



――乱入者の指は溶けることなく、マグマロックの頭突きを受け止めていた。


 マグマロックは全身に力を込め、振動している。

 逆に乱入者はまったく力を込めていない様子で、体は一切震えていない。平然と、二本の指であの巨体を受け止めている。



「【な、なんだお前――なんだお前ッ!?】」


 マグマロックの言葉は、オレの心情とマッチしていた。


「お前……

 オイ、泥帝でいていという名を聞いたことあるか?」


 乱入者は質問する。

 マグマロックは乱入者の質問に反応せず、頭を上げ、もう一度頭突きを繰り出そうとする。


 オレは直感した。

 マグマロックは間もなく死ぬと。斬り殺されると。


「知らないか。

 なら消えろ」


 オレ達が三人(二人と一匹)がかりで仕留めきれなかった相手を、その男は容易く斬り裂いた。剣閃はほとんど見えず、気づいたらマグマロックはバラバラになっていた。


 大剣は錆びた剣に姿を戻し、乱入者の腰に据えられる。


 そこでようやく乱入者はオレの方を向いた。

 暗い赤色の頭髪、黄色の瞳。左右の耳に雫型のピアスを付けている。


 まだ青年という言葉が似合う男。

 オレは奴の顔を、ある場所で見たことがあった。


「アイツは……!」


――『さて、どうする。脱獄するか? ここに居る看守全員オレがのしてやるよ』


 そんな物騒な言葉から爺さんと会話を始めた男。

 あの牢屋を訪れた四人の来訪者の一人。


 確か名前は、


「アドルフォス」





 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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