第五十一話 シール vs レイラ その4
展開される転移魔法陣。
レイラの両手に形成されたナイフが発射され、転移魔法陣を通してオレに迫る。
――その全てを風の刃で迎撃する。
“
囲むように設置された転移魔法陣。オレは横に一回転し風の刃を円形に展開、ナイフが魔法陣から顔を出した瞬間にナイフを全て破壊する。
「そんなっ!?」
レイラの表情が曇る。
ここまで魔力を温存しておいてよかった。強化の魔力も形成の魔力もまだ余裕がある。
この燃費の悪い2枚の切り札を存分に使える。
だがお前はどうだ? レイラ。
“流纏”、“流纏掌”。度重なる“ナイフ生成”。“転移の魔力”。
大技を連発しすぎて、もう魔力はあまり残ってないんじゃないのか?
「我慢比べだな……!」
レイラの口角が上がる。
「上等だよ……!」
ナイフの形成速度が上がり、乱雑に放られる。
オレはナイフを落としながら、着実に一歩ずつ重ねていく。
“
「レイラ、お前、爺さんが家を離れてなにをしていたか知ってるのか?」
「知らないよ! どうせロクでもないことに決まっている!」
「違うな! 爺さんはきっと、世界の脅威を封じて周っていた。
オレは爺さんが封じた巨悪を一体知っている。屍帝って言う、人を貪る悪魔をな!
一国を滅ぼすほどの化物だ! 放っておけば、
「……っ!」
「爺さんはきっと、人類の脅威を払うために、
大切な誰かを守るために家を離れていたんだ!」
「封印術を広めれば、その脅威だって簡単に封じれたでしょ!!」
「……封印術師ってのは封印と共に解封もできる。下手に封印術を他人に教えなかったのは自分が封印した巨悪をイタズラに解封させないためだ!
爺さんの行動には、なにひとつ間違ったことはないっ!」
「そんなの、全部君の妄想だよ!」
レイラが無防備に、オレの正面に転移魔法陣を向けた。
「――そこだ!」
「しまっ――!?」
オレは最大出力で斬風剣の突きを繰り出し、発生させた風の刃を正面の転移魔法陣に通す。
レイラの目の前の魔法陣に風の刃は転移し、レイラの右肩に
「うっ!?」
苦悶の表情を浮かべ、ナイフを手元から落とすレイラ。
決定的な隙が出た。オレは剣をその場に捨てた。
――ここで決める。
「色装……!」
“
オレの姿は橙色に溶け、瞬間移動の如くレイラの前に姿を現した。
「なんて速度ッ!?」
「オレは確かにアイン=フライハイトを知らない。だがな」
右拳を握り、腕を引く。
「お前も、バルハ=ゼッタを知らなさすぎるんじゃないのか?」
「――ッ!?」
レイラが怯み、右脚の踵を地から離した。だがすぐにレイラは態勢を立て直した。
右手を引き、レイラは掌底を用意する。
「“
レイラの右手に渦巻く青色の魔力が纏われた。
狙いはわかる。オレの右拳の一撃、黄魔による烙印を防ぐ気だ。
オレが黄魔を打ち込む前に掌を合わせ、流纏で黄魔を乱して不発に終わらせる。同時にオレの拳は砕けるだろう。
――きっと、彼女の思惑通りに事は進む。
オレが拳を放てばな。
「――“
オレは右拳を引いたまま置き、左手でレイラの掌底を受け止めた。
オレの左手にはある物が
「手袋……!?」
手袋の中心には五角形の字印が描かれている。
魔力を乱す“流纏”。魔力を封印するオレの手袋。
“流纏”と“魔力封印”、二つのアンチ魔力の力がぶつかる。
「ぶっとべ……!」
「これは、魔力封印ッ!!?」
瞬間、オレとレイラの掌底は火花を散らし、魔力の波動を弾けさせた。
結果として、オレの手袋は破け、レイラの“流纏”は解除された。
「これが、オレが用意した“流纏”対策だ」
オレは引いておいた右拳を前に出す。
「君は、どこまで……」
「――
空いた右拳にありったけの赤魔と黄魔を込めて、レイラの顔を殴り飛ばした。肌を通して体内に黄魔が撃ち込まれる。
レイラの頬に字印が浮かび上がる。
オレは彼女の名が書き込まれた札を右手の指に挟む。
札は青く光っていた。
「
レイラの衣服を残し、彼女の体は札に吸い込まれていった。
札に描いた魔法陣が赤く染まる。
――あぁ、まったく……長い道のりだったな。
「封印、完了」
決着。
会場は展開について行けず一度冷えかえり、オレが拳を振り上げるとともに瞬く間に沸騰した。
――――――――――
【あとがき】
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