第三十四話 その出会いは春の街に訪れる
丸太を並べて、紐で縛り上げただけの物が
シュラが胸を張って「船よ!」と主張する。
「いやぁ、無理があるだろう。
マザーパンクまでどんだけ距離があると思ってるんだ?」
「作戦ならあるわ!
私が船を赤魔で強化し続けて、アンタがオールでひたすら漕ぐ。
それで、フレデリカが水流を操作して船を加速させる!
――完璧ね、完璧よ!」
シュラの主張に対し、まず物申したのはフレデリカ。
「あのぉ~、この島にはいずれ騎士団が来るんですよね?
それまでジッとしてればいいのでは?」
「私、ジッとしてるの嫌い」
子供のように頬を膨らませ、シュラはプイッと首を振った。
カーズとイグナシオがシュラの意見に頷く。
「俺もだ!」
「僕もです!」
「ガキかテメェらは……」
まぁオレもジッとしてるのは嫌いだがな。
「シュラの作戦、粗削りだが悪くないと思う。
最悪海に沈んでも、フレデリカの魔術でなんとかなるだろう」
「その……私、全員を救えるような魔術は……」
「二人ならどうだ? カーズとイグナシオ、この二人さえなんとかしてくれればオレとシュラは赤魔で体を強化してどこか陸まで泳いでいくさ」
「そうですね……私含め三人ならなんとかなると思います」
オレは地面に置いておいた巾着バックを拾う。
そこで巾着バックに入れっぱなしにしていた大切な物を思い出す。
「いや駄目だ。もし爺さんの手紙が水で濡れたら最悪だ!」
「あ! それならコーティングしましょうか?
私の魔術で一定時間水を弾く鎧を作ります。貴重品など、濡れては困る物がある方は出してください」
お言葉に甘えて、オレは武具の入った札と爺さんの手紙にコーティングをかけてもらった。フレデリカ、なんて便利な魔術師なんだ。“
先頭にシュラ、二番目にカーズ、真ん中にオレ、四番目にイグナシオ、最後尾にフレデリカ。この配置でオレ達は船――というかイカダに乗った。
「全員乗ったわね! 出航よ!
エンジン全開!」
「はい!」
フレデリカの水流操作の魔術。
イカダの背後で水しぶきが唸る。イカダは一気に船をも超える速度を作り出した。
飛び散る水滴が顔面を濡らし、熱かった風が冷風へと変わる。
「うおっ!?
コイツはすげぇなぁ!」
海に居る魔物たちは反応できず、オレ達をただ見送った。
「おわあああああっ!?
はははははっ! 面白れぇ!」
「きゃああああああああっ!!?」
カーズとイグナシオが叫び声を上げる。
「次! アクセル全開!」
オレはオールと己の肉体を魔力で強化する。
「あいよ!」
肩を回し、さらに大きな水しぶきを上げて加速する。
速い、速すぎる。これならあっという間にマザーパンクに着くんじゃないか?
この連携の
そう、シュラが居なくなればこの連携は崩れる。
――オレはそこで、太陽の日差しに気づいた。
「シュラ……オレはこの作戦の重大な欠点を発見した」
「奇遇ね。私もよ」
シュラはイカダを作る前にアシュと入れ替わった。
そこからイカダを作り、船に乗って漕ぎだすまでどれだけの時間、陽を浴びた?
時間はほとんど残されていないのでは?
「――カーズ! シュラに覆いかぶされ!」
「おいおい大将、なんだそりゃ!」
「いいから早くしろ! お前が影になるんだ!」
「よくわからないが、任せろ!」
カーズがシュラに覆いかぶさろうと両腕を広げた。
よし、これでカーズが影になって――
「な、なにすんのよ!」
シュラの蹴りがカーズの顔面に炸裂する。
カーズが宙を舞い、オレとイグナシオの間に背中から着地した。
「あああっ!?
なんでもいい、シュラになにか被せ――」
ボン、と白煙が散った。茶髪女子は姿を消し、金髪女子が新たに現れる。
金髪少女、アシュは丈の合わない服を着ながら、呑気にオレに手の平を見せた。
「(お)はよー」
「はよー……じゃねぇ!
フレデリカ、魔術を止めろおおおおおおおおーーーーーーーっ!!!!」
フレデリカは状況をわかっていない。変わらず速度を出している。
強化の魔力の支えを失った船は加速に耐えられず、当然の如く大破。
速度が付いていたせいで俺達は広大な空へ投げ出された。
「のわああああああっ!!?」
「うわああああっ!!?」
「ぎゃあああああああああああっ!!?」
幸い、カーズとイグナシオはフレデリカの近くの空を舞っている。
アシュは風魔術で水の上に浮いた。
オレは自分の生存に集中する。赤魔で体を強化、背中から海に勢いよく飛び込む。
平手打ちを喰らったような痛みが背に走った。
「やべ……! 流れが強いっ!!!」
体の強さだけでは何ともならない激流。
絶望的な状況、畳みかけるように高波が迫ってきていた。
「おっと……こりゃマジでまず――」
青と黒が視界を支配した。
---
「ぷはぁ!?」
波に流された後、ガムシャラに泳いで何とかオレは岸に付いた。
あの波に呑まれ、顔を上げた時には既に周りには誰も居なかった。今はオレ一人だ。
両手を上げ、土を掴む。そのまま両腕に力を入れて上半身を陸に上げる。
口に残るしょっぱい味。
服は水に濡れ、鎧のように重くなっている。
「しまった……」
バックが無い。海に流された時にはぐれたか。
探しに行く――のは無理だな。イカダが沈没した場所もわからん。札も、爺さんの手紙も全部あのバックの中だってのに。仲間の誰かが拾ってくれていることを祈ろう。
オレは土を踏みしめ、海から全身を起こし、両膝を付いた。
遠目に港が見える。ここは本来着陸するような場所じゃないようだ。
「どこだ……ここ、は――?」
顔を起こし、上を見てオレは瞳を奪われた。
適当に泳いで着いたそこは、空が無かった。正確には空が遮断されていた。
天を覆うほどの――桜。前を見ると、街があった。街の中心には巨大な大木、桜がある。その桜から伸びた枝・花が屋根のように広がっている。
オレは本能的に、ここがあの場所だと確信する。
「
土の道はすぐに石畳で舗装された道路で止まっている。
犬顔の戦士、ブタ顔の商人。
下半身が馬の女性、角の生えた少年。
多種多様の種族が街を賑わしている。
“獣人”、はじめて見た。
「ははっ、おとぎ話の世界に入ったみたいだ」
通行人が怯えた顔でオレを見ていた。
そりゃそうだ、水浸しで地面に座って笑う奴が居たらオレだってそういう目を向ける。
通行人はオレにチラリと視線をやった後、関わるまいと去っていく。
そんな中で、一人だけ、オレの前に足を踏み出した。
「君……大丈夫?」
水色の瞳。
模様のない白のワンピースに、麦わら帽子。ありがちな、どこかで見たような服装だ。
絵の描けないオレが、それでもキャンバスにおさめておきたいと思えるほどの、今にも消えそうで、儚げで、凛とした美しさを持つ少女が立っていた。
「お前は……」
彼女からはなぜか――懐かしい雰囲気を感じた……。
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!
皆様からの応援がモチベーションになります。
何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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