第7話 秘密の特訓

 次の日、家の留守番を任された俺とミラは、家の裏の大きな空き地で強化する魔法の練習を始めた。話せることに加えて魔法が使えることも知られてしまったベガは、開き直ったように先生役をしている。

「いいですか、二人とも。魔法を使うときに最も大切なのが、魔力の操作です。そして次に大切なのがイメージです。この二つを高いレベルで成立させなければ強い魔法は使えません」

 俺の隣でミラも真剣に話を聞いている。魔法が得意なだけじゃなく、大好きだからここまで真剣になれるんだろう。

「まずは操作の訓練をはじめましょう。体に循環させた魔力を加速させて、あの木に向かって放ってみてください」

 俺とミラは魔力を絞り出し、体の中で循環させ始める。ここまでは昨日ミラとラオさんに教えてもらった。しかし、集中してもその流れが加速する感覚はつかめない。そんな俺とは対照的に、隣のミラは魔力をどんどん加速させている。

「魔力の操作は動かす魔法に近い感覚が必要なので、バックさんには難しいかもしれません」

「そんな…。でもこれができないと強い魔法は使えないんでしょ?」

「大丈夫です。魔力はあなたの体の中から生まれてきたもの。あなたの意思に必ず答えてくれるはずです」


 目を閉じて体を流れる魔力に全神経を集中させ、それらに意思を伝えようと努める。やがて周りの音も聞こえなくなっていき、自分の中の魔力の流れがそよ風からつむじ風、そして竜巻のような大きさへと成長していくのを感じた。

 大きく成長した魔力の流れを、今度は手の先一転に向かってさらに加速させていく。目を開いて今度は的に集中する。十分に加速した俺の魔力は手の差にとどまることなく放出され、木に命中した。その木は半分ほどのところまでえぐられている。

 魔力を再度体の中にとどめると、次第に流れの速さは穏やかになっていき、ようやく目を開けると笑顔のベガとミラがいた。

「素晴らしいですね。あれほどの威力で命中までさせるなんて」

「私も命中させられなかったのに、すごいです」

 集中していて気が付かなかったが、ミラも魔力の放出に成功したようだ。


 少し休憩して、今度は本格的な強化の訓練を始めることになった。再びベガの授業が始まる。

「強化する魔法というのは、魔力を物や人にまとわせて、その能力を強化したり性質を変化させたりすることができる魔法なんです」

「能力だけじゃなくて性質も変えられるんだ」

 「はい」と答えてベガは話し続ける。

「性質の変化は、使い手が魔力に対して持つイメージによって変わってくる難易度の高い魔法です。まずは、単純に能力だけを強化できるように訓練をしましょう」

 そういってベガは、周りに落ちていた木の枝を二本咥えてこちらに投げた。これを強化して、俺の力でも折れないようにすることが目標だそうだ。

「能力を強化するのは簡単です。自分の魔力をその枝に流し込み、そしてとどまらせるだけです」

 俺とミラはさっそく木の枝に魔力を流していくが、枝は魔力を流して数秒間は光っているものの、その光はすぐに弱まって消えてしまう。きっと魔力がとどまっていないのだろう。ミラの方も、自分の体の強化はできるが、それ以外のものを強化することはまだできないらしい。


 練習を重ねるにつれて光る時間は少しずつ伸びていったが、なかなか持続させることができず、魔力が切れては休んで回復するのを繰り返しているうちに、日が傾いてきてしまった。

「大変、もうすぐみんな帰ってきてしまいます」

 そういうミラの額には、大粒の汗がにじんでいる。

「ベガ、今日はもう終わりにしよう」

「そうですね、では最後に私の方から成功例を見せておきましょう」

 そういうとベガは立ち上がり、俺の足元に転がっていた木の枝に鼻先で触れた。その瞬間、木の枝は一瞬強い光を放ち、そして収まった後も淡い光をまとい続けていた。その光は一向に消える気配を見せない。

「バックさん。その枝、折ってみてください」

 そういわれて枝を手に取ると、触れた瞬間に明らかに今まで触っていた枝と違うのがわかった。硬い。圧倒的に硬いのだ。両手で持って折ろうとしてみても、鋼鉄のような硬さで曲げることすらできない。

 その枝を持ってそばにあった岩をたたいてみると、岩の方が砕けてしまった。ただの枝が一瞬にして強力な武器に変わった。ベガはものすごい魔法の使い手だったんだと改めて思う。

「私はいつも自分で作った翼を強化して空を飛んでいるんです。お二人も訓練を重ねればあの木よりも高く跳べますよ」


 その日の夜、昼間の練習を思い出しながら天井を見上げていた。ベガの魔法は確かにすごかった。でも、強化したときの最初の光は俺も同じくらいの強さだった。

 あれをとどめることさえできれば、ベガと同じくらいの魔法が使えるはずなんだ。自分が焦っているのは自覚しているが、急がなければ村はティタノベアにやられてしまう。村の人たちも対策は用意しているだろうが、いざとなったときに自分の身は自分で守らなくてはならない。そのためにも、早く強化する魔法を習得しなければ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る