第8話 神の場所


 SeitoとSeikaはチュートリアルで誰もが訪れる初心の森へと移動していた。


 四大精霊の祠の中心位置であろう場所に立つと月は頂点まで昇っているのがはっきりとわかる。


 辺りを見渡せば星が輝く夜の風景に月に照らされている草原は果てしなく続いている。


Seito 「本当は1人ずつ四大精霊の力を出すんだろうけど」


Seika 「2人だから、それぞれ2つずつ一緒にだそう」


Seito 「俺は水と土を同時に放つ」


Seika 「私は火と風を…。絶対に攻略しよう」


 目を合わせ頷くと2人は腕を前へ出し手を握る。四大精霊の力を一気に振り絞ると、身体の輪郭に沿って赤、青、緑、茶色の色合いが交じり合い、次第に白く輝き視界が真っ白になる。


 気が付いた時には空中にある庭園の床に寝そべっていた。


Seito 「ここが…」


Seika 「太陽と月が昇る位置…」


 重い身体を起こすと真っ暗な空に広がる星との距離は近く、月は頂点に達していた。


 「やぁやぁ君たち」


Seito 「っっ!!」


Seika 「あんたっ……!!」


 2人の目の前に現れた人物こそ、このゲームをハッキングした張本人である黒いフードを被った少年だった。


 「ようやく、ここまで辿りついたんだね。長かった。いや…待ちくたびれた」


 被っていた黒いフードを掴み脱ぐと髪や目は白銀の色をしている。Anzuを襲った―――そしてLenとShinをも戦闘不能にした忘れもしない姿にSeitoは眉を寄せる。


Seito 「お前、あの時のAIっ…!」」


SF1号 「ご名答。僕の名前はSF1号」


 ゆっくり話すSF1号はやんわりと微笑む。


Seika 「AIが…ゲームをハッキング…?」


SF1号 「このゲームは博士に依頼されて僕が造ったんだ」


Seito 「AIがゲームを!?造った張本人が何故Anzuさん、Lenさん、Shinを殺したんだ!?」


 Seitoの声が空間に響く中、SF1号はため息をつく。


SF1号 「レベルが低いまま料理ばかり作っているやつにクリアなんて出来る?それにLenとShinとかいうプレイヤーも君たちの力無しじゃ、どうせクリアも出来ない只のお荷物だよ?そんなプレイヤー達を生かしておく必要性があるかい?ないよねぇ」


Seito 「そんなのやってみないと分からないだろっ!?」


SF1号 「あははははは!!!AIが造ったゲームを未だにクリア出来ないくせに!!」


 SF1号は笑い声をあげるとSeitoとSeikaは口元を歪ませる。


Seika 「何の為にこんな事をするの?」


SF1号 「人間を"試した"のさ」


Seito 「ため…した…?」


 Seitoの問いにSF1号は頷くとニッコリと笑みを浮かべる。


SF1号 「ねぇ、君たちは知ってる?昔の人間はゲームをクリアするのにタイムを競い合う程、早かったんだよ」


Seika 「だから何?」


SF1号 「昔の人間は自分達で考え悩み答えを探していた。なのに…今の人間はAIにばかり頼って、次第に考える事をやめて…。人間の知能はAI以下になってしまったんだよ」


 如何にも怒りをあらわにしているSF1号の表情に2人は息を呑む。


SF1号 「そんな、君たちに最後の試練だよ。この僕と戦って勝ったらこのゲームから解放する権限を渡すよ」


 小さく呟くとSF1号は片手に太陽の剣サンソード、もう片方に月の刀ムーンブレイドを出し握るとクロス状態で構える。


SF1号 「もはや知能が落ちた家畜同然の人間に生きる資格は―――無い」


 最強と言っても過言では無い2本の武器を握りSeitoとSeikaが立つ位置まで風の精霊の加護を身体に纏い凄まじい早さで2人に迫る。


Seito 「月の刀ムーンブレイド!」


Seika 「太陽の剣サンソード!」


 2人は息ぴったりで武器を出すとSF1号の刃を揃って受け止める。武器が互いに交じりギリギリと音を立て火花が放つ。


Seito 「こっちの苦労も知らない癖に言いたい放題、言いやがって!」


Seika 「あんたなんかに負けてたまるのかっ!!」


―――【30年前】


 大手企業が仮想空間の運営を開始した中、SF1号は両手に1台ずつゲーム機を握りしめると満足気に笑う。


SF1号 「博士ー!博士ー!」


 「ん?」


SF1号 「僕、こんなゲームを作ったよ!」


 「どれどれ……」


 白髪の頭に、顎にもっさりとした髭が生えた博士はSF1号が作り上げたゲームを見る。


SF1号 「どう?博士」


 携帯機のようにコンパクトなゲーム機を博士は持つと、十字ボタンを押し操作をしていく。


 「フハハ!SF1号は本当に昔のゲームが大好きなんだな~」


SF1号 「昔の人って自分達で攻略を考えていたんだよね?」


 「うむ。躓いた時には知り合いに聞いたり、時にはどうすれば効率が良いか考えたり…。ゲームでお友達が増えるなんて事もあった」


SF1号 「すごいなあ。人間は。僕も一緒にプレイしてお友達になりたいなあ」


 「ワシは友達では無いのか…」


SF1号 「博士わね…。僕を造ってくれたから…オジイチャン?みたいな感じかな!家族でもゲームってするよね!」


 「フハハハハ!!ワシはオジイチャンか!そうだなぁ、マゴと一緒にゲームをするのも悪くないのう!」


 SF1号が開発したゲームを2人は通信プレイをする。ゲーム内容は至ってシンプルなシュミレーションゲーム。ユニットを選択し、接近したら戦闘となり最終的にユニット数が多い方が勝ち…だ。


SF1号 「負けたーーー!!」


 「年の功かのぅ!フハハ!」


 その後、SF1号は博士に何度も戦いを挑むが結果的に全敗だった。


SF1号 「やっぱり凄いな…。人の考える力は」


 「SF1号はアイディアを生み出す創造性モデルAIだ。考える力は人並にある」


SF1号 「でも、勝てなかった…。でも次は勝つ!」


 「フハハ!負けず嫌いは人間と同じぐらいだのぉ」


SF1号 「博士。僕が大型MMORPGを造るって本当に言ってる?」


 「ウム。SF1号なら絶対に楽しませるゲームを造れる」


SF1号 「キーボードで文字を入力してチャットするやつだよね!」


 「古い…。SF1号、今の世の中は仮想空間が出来上がったんだ。時代に合わせてゲームを造りなさい」


SF1号 「僕が造ったら人間なんて1週間でクリアされるよ…」


 「それでも構わん。ゲームは楽しければ良いんだ」


 博士はSF1号の白銀の髪を優しく撫でる。頭を撫でられたSF1号はどことなく温かい気持ちに包まれる。


 月日は流れSF1号は仲間と共にスピリットファンタジーを完成し運営を開始した。


SF1号 「博士。ゲームが出来上がったよ」


 SF1号はお墓の前で手を合わせていた。


SF1号 「普段、人間の傍につくフェアリー型のAIをゲーム内でも助言が出来るようにしたんだ。後、現実世界の接客型AIと過去に生成したゲームNPCのAIを掛け合わせて一人でもゲームを快適に遊べるように作ったんだ」


 愛してやまない博士のお墓の前で立つSF1号だが、瞳から涙は零れない。


SF1号 「僕の作ったゲームをプレイして昔の人みたいに攻略の情報を話し合って、知らない人と仲良くなれたら良いな。きっと1年以内にはクリアするよね。だって人間は僕が尊敬する博士のように考える力が凄いんだから!」


 博士が眠りについたお墓の前でSF1号は胸に手を当て服をキュっと握る。


SF1号 「博士…。人間って何で命が短いのかな…?もっと一緒に…ゲームをしたかったよ。僕が造ったゲームで一緒に…遊びたかった…な…」

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