これからも僕達は 外伝2

春渡夏歩(はるとなほ)

これからも僕達は 外伝2

空を見上げて

エリンの物語1

 その日、モーリスを訪ねてくる人があった。彼女は部屋に入る前に、胸のペンダントを軽く握った。自分のことは忘れ去られているかもしれないという不安があったのだ。


 その頃、モーリスがベッドから出て動ける時間は、わずかな限られたものとなっていた。


「モーリス、お客様だよ」

 ラディが声をかけると、ベッドのモーリスは目を開けた。彼女を見て、誰だか思い出そうとするように一瞬、考えたあとで、

「君は…エリン?」


(ああ、覚えていてくれた…)と、嬉しかった。


「お久しぶりです。ずっと連絡しなくて、ごめんなさい」

 ラディは彼女に座るよう促し、ベッドを少しだけ起こすと、

「何か用があったら声をかけて」とモーリスに言った。

「うん、ありがとう、ラディ」

 ラディは部屋を出て行った。


 エリンの父親は、償いが終わったあとで急にやまいが見つかり、半年の間に帰らぬ人となっていた。彼女はそれを伝えるために来たのだった。


 モーリスはお悔やみを言ったあと、吐息まじりに

「ああ…。君のお父さんと一緒に仕事がしたかったな。きっとヴァンもそう思っているはず」

 そして、ふとエリンの胸のペンダントに目をとめた。

「それは、あのときの…?ずっと持っていてくれたんだね」

「ええ。さすがにもう発信器としては動きませんが」

 彼女は微笑んだ。


 エリンは帰る前に、ラディに呼びとめられ、少し話をした。

「今日は来てくれてどうもありがとう。モーリスはずっと君のその後を気にしていたから。良かった」

「彼は今、どうなんでしょうか?」

「今はもう積極的な治療というより緩和ケアの段階で、穏やかな時間を過ごせれば、それでいいと思っている」


 彼女は思った。

(ああ…。もっと早くに訪れるべきだった…)


「ところで、君は今、どうしているの?」

 ラディの問いで、エリンは現実に引き戻された。

「…私は、あれから精神科医になりました」

「君もいろいろと大変だったね」

 そう言うラディに、彼女は小さく首をふった。

「もし良ければまた来てくれる?勝手なお願いだけど、モーリスをサポートしてくれないかな」

 エリンは微笑んだ。

「ええ、もちろんです」


 

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