第10話 予想外の強敵


「くそ……!? 重力魔法だと!? 回り込め!! なんとしても聖女を逃がすな!!」

 

 路地で騒ぐ反乱軍を尻目に、タタラはエルモアを抱きかかえて屋根から屋根へと飛び移っていった。

 

「すごいです……!! タタラ様!!」

 

「誰がタタラ様だ!! それよりあんた何者だ!? 何で狙われてる? 王族たちはどこだ!?」

 

「ああ……実務的な質問の数々……働く男の匂いたまらん……フゴフゴ……」

 

 

 やっぱり駄目だ……

 

 この世界にまともを期待した俺が馬鹿だった……

 

「じゅるり……失礼……王族の居場所でしたね!! お城に全員囚われています!! 反乱軍の幹部も達もそこに……!!」


「よし……ひとまずあんたを逃がす。そのあとで王族の救出に向かう。いいな?」


「ああ……推しのアジトに連れて行かれて正気を保っていられるか……少々自信がありませんがイッパイ頑張ります!!」

 

 いやいや……


 突っ込まねえよ……?


「こんな美少女を前にしてんですか!?」

 

「……」

 

 タタラが頭を抱えていると、前方で凄まじい咆哮が響いた。

 

 強烈な殺気がビリビリと大気を震わせ家々の屋根が崩れ落ちる。

 

「なんですか……? あの化け物は……?」

 

 エルモアは青褪めると、どさくさ紛れにタタラの首にギュッ……としがみつく。

 

「べ……ベヒモス!? 待て!! 誤解だ!! この人は……」


「勇者様ぁあああ!! 私を守ってえ〜ん!!」


「はあ!? てめえふざけんな!?」



 そこには紫色の炎を両眼に宿した怒れる乙女、魔獣ベヒモスが立ち竦んでいた。


 前足で何度も地面を掻きながら、恋敵に狙いを定めるとベヒモスの筋肉質な巨腕が地面を打つ。

 

 その瞬間、街を破壊し尽くすほどの超重量破壊砲本気の突進がエルモア目掛けて発射された。

 

 衝撃で地面が波打ち、家屋が歪んで木端に変わる。


「あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙……!! クソっ!!」 


 タタラはエルモアを背後に庇うと両手を前に出して言った。

 

「呪重霊言……!! ベヒモスよ ”止まれ”」

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