How to Chess 2

3.それぞれの職業について




 チェスをプレイする上では、六種類の職業と各々の役割分担が重要な鍵となっています。


 そのために、プレイヤーは職業ごとに、決まった特殊な能力が必要とされます。


(しかし、ポーンは例外で、原則どんな者でもなれることになっています)


 またチェスでは職業ごとに、一日に移動できる範囲が制限されています。


 これから、それぞれの職業について詳しくご説明します。




ポーン〈P〉


‐歩兵‐




一国に八名おり、戦いのメインになるプレイヤーたちです。


 プレイヤーはその国の者でなくてもよく、一芸さえあれば、どんな者でもよいとされます。


 ポーンは主に、




1.相手の国の王都まで旅をして、キングのクロスを狙う。


2.自分の国付近にいて、相手プレイヤーから自軍の王を守る。


3.他のプレイヤーの援護をする。




 この三種類の動きがあります。


 ゲーム期間は、ポーンは自分が一日に徒歩で行ける範囲しか進めません。


 しかし馬と鳥以外の動物や乗り物に乗って移動することはできます。


また、ゲーム開始以来まだ一回も他の町へ出立していない場合に限って、二日分の距離まで足をのばすことができます。


 こういうわけで、ポーンの旅はゆっくりです。


 ポーンは“一芸があれば誰でもなれる”という原則から、多種多様なプレイヤーが集まるので、ゲーム中、最も予想のつかない試合を見せてくれます。






ナイト〈N〉


-騎士-




 その国の騎士の中から二名が選ばれます。


 ナイトもポーンと同じように、戦いがメインです。


 ナイトはゲームの前半戦、チェスの試合のうちでも最も華やかな独自のイベントが待っています。


 それは、緩衝都市の領主が主催する「団体馬上試合」や「馬上槍試合」などの大会です。


 チェス期間中、三十二ある緩衝都市の少なくとも一つでは、町の領主が大陸各地の騎士たちを集めて、祝祭の一環としてこの大イベントを開催します。


 この大会には、領主の招いた貴人から、町で働く人々や周辺の村人まで、老若男女を問わず、多くの観衆が集まります。


 その大会に、腕試しをしたい紅白の騎士たちも、他の大勢の遍歴の騎士たちに混ざって参加します。


 もちろん、ナイトが大会に参加するかどうかは自由なのですが、多くの場合、チェスの初戦として、紅白がここで一騎打ちをします。


 大会に参加したナイトたちは、お互いクロスを賭けて、沸き立つ観衆に見守られながら、馬上で正々堂々と闘います。


 ここで勝負をして、たとえ我が身のクロスを失おうとも、勇気と知略に溢れた優れた試合をした騎士たちには、両者ともに大陸中の人々から賞賛を与えられます。


 西大陸の騎士たちにとって、チェスのナイトとなって、大会で試合をすることは、最も晴れがましい栄誉だといえます。




 ゲームの間、ナイトは一日に馬で移動できる範囲だけ進むことができます。


 ナイトの乗る馬は、羽なき天馬と呼ばれる魔力を持つ馬で、この馬はどんな障壁をも飛び越えて駆け抜けることができます。


 この馬を馭すことがナイトに必要な能力です。


 六種類ある職業の中で、相手のプレイヤーの包囲をくぐり抜けて、どこにでも行けるのがナイト独自の能力です。


 ナイトはポーンより機動性が高く、六十四都市内を自由闊達に駆け巡るのが特徴です。






ビショップ〈B〉


-僧侶-




 ビショップは、一国に二名おり、その国の若い大僧正候補の中から選ばれます。


そして二人は、チェス開催六十四都市の中で、それぞれ半分ずつのエリアを担当します。


 その範囲内で、大鳩に乗って、一日にどこまでも自由に空の道を行くことができます。


 ビショップは、ポーンやナイトが華やかに試合をするとは違って、裏でゲームの運営をサポートするのがメインとなります。


 いわゆる団体競技のマネージャーのような役割です。


 その中で最大の特徴は、西大陸中に広がる教会のネットワークを使って、ゲームの情報収集を担当することです。


 西大陸のほとんどの都市や村には教会があり、伝書鳩を使った通信網が整えられています。それをビショップはゲーム中、自分の裁量で情報分析しなければなりません。


 ゲーム開始前は、相手の国のプレイヤーの情報を集め、ゲーム中は、紅白両方のプレイヤーたちの居場所を把握し、プレイヤーにトラブルがあった時には、何が起こったかの調査に奔走します。


 また、ビショップは、試合の事後処理をすることもあります。


 他のプレイヤーが試合をして、その勝敗が決まった時、ビショップはその場に駆けつけて、それ以上戦いが続かないように“不動”の魔法で、その場にいるプレイヤーたちの動きを止めます。


 戦いで傷ついた自国のプレイヤーには、かの者を魔法で“癒し”ます。


 “不動”と“癒し”は、ビショップ独自の能力ですが、教会から選ばれたビショップは、戦いのためにこの能力を使うことはありません。


 ビショップは、情報係として、他のプレイヤーをサポートする縁の下の力持ちです。二人が揃っている時、その力を最大限に発揮します。






ルーク〈R〉


-城-




 一国に二名おり、王のいる城を守るのが一番の仕事です。


 ルークは、その国で最も守備魔術に長けた魔術師です。


 “城”という呼び名は、古くはその城を造る魔力ある石の精が、己が城を守護する能力を戦いで磨くためにチェスに参加した、というのがこの職業の始まりであるためです。ルークになれる者は、その王城の石の精を祖先に持つと言われるくらい、古くからその王家に仕えている名家の魔術師です。


 ルークの能力は“空間使い”と“変化”です。


 ルークは、相手プレイヤーが自分側の王都に入ると、そのプレイヤーを、己が魔術で編んだ異空間に強制的に引き込み、その中で相手プレイヤーと戦います。


 これが“空間使い”です。


 また、己の姿形を変える“変化”と呼ばれる稀な能力を使うことができます。


 ルークは、その国の歴史の古さに比例して、強いプレイヤーが出場すると言われています。






クイーン〈Q〉


-女王-




 一国に一名おり、他のプレイヤーを束ねて、自国のリーダーとして総指揮を執ります。


 その国の女王ではなくても、王家の女性ならばよいとされます。


 よって、未婚の王や女王の国でもチェスに参加することができます。


 クイーンはペガサスを馭して、一日にどこまでも行くことができます。


 その素早い移動能力で、攻守をともにこなし、はては情報収集に走りまわることもできます。


 これを“天駆け”と言います。


 クイーンはオールマイティーに役割をこなすことができるので、その存在は重要となってきます。リーダーをも務めることから、その国の支柱とも言えます。


 そんな紅白のクイーン同士が、天空で天馬を走らせ神々しく戦うさまは、チェスの一大名場面と言えます。


 他のプレイヤーたちは、その美しき雄姿に奮い立ち、いにしえから多くの詩人たちが、この戦いを雄渾な詩で語ってきました。


 よくプレイヤーたちは、相手方のクイーンが天道を駆けているところに出くわすと、『“猫”が現れた』と言います。


 そしてある者は、この時ばかりと試合を挑み、またある者は分が悪いと旅の道を引き返します。クイーンは六十四都市どこへ行っても試合を挑まれます。


 “猫”と呼ばれる訳は、古代、チェスで初めてクイーンとなった者が、猫耳の女王だったためだと伝えられています。


 クイーンは他にも“時間に好かれし者”、“チェスの主人公”など多くの異名を持ちます。


 それだけクイーンは、チェスの中でその活躍が際立っている職業だと言えます。


 クイーンは、武術・魔法ともに秀でた者がなるために、十六人のプレイヤーのうちでも最強と言われます。






キング〈K〉


-王-




 キングはその国の王、もしくは女王が統治者の場合ならば女王がなります。


 キングはゲームが開始されると、日中は敵に試合を挑まれない限り、王城の王の間で眠り続けています。


 というのも、他のプレイヤーの活躍を夢で観戦しながら、ゲーム全体を客観的に見据えているからです。


 そして夜になると目覚めて、王城内の他のプレイヤーたちに、指示や助言を行います。


 これは“夢使い”と呼ばれる、キング独特の能力です。


 もし、ゲームの間に、自国の情報係ビショップと、それを補完するクイーンが、両者欠けてしまったとしても、ゲームの流れの把握は、最終的にキングが行えるということになります。




 相手の国のプレイヤーが、王の間に踏み入れた状態を“チェック”といいます。


 チェックをかけられた時、初めてキングは戦います。


 チェックの話は、後ほど詳しくお話します。


 キングのクロスを捕られると、勝負は負けとなってしまいます。他のプレイヤーたちは、相手の国のプレイヤーを王の間に寄せないように、大切に守らなければなりません。




 以上がプレイヤーの職業の種類と、基本的な役割です。


 他にも特殊なルールがありますが、それはどうぞ実際のゲームの中で見つけて下さい。




 この先は、チェスとはどんなゲームかについてお話します。


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