新訳 雪女

博雅

第1話 茂作と巳之吉

江戸時代、木曽川の支流のひとつに、小さな林業を営んでいる茂作という老人がいた。そこに奉公人として仕えていたのは巳之吉という青年で、二人は稀有な木材を探し出せる名うての木こりとして木材を江戸に卸していた。


とある日、適度に間隔があけられた、計画的に植林された林に薪を取りにいくこととなった。ただその日は吹雪がびゅうびゅうと吹いており、黄昏時、向こう岸に行くための船、小舟が向こう岸につけたままとなってしまっていた。川のそばには、渡し守が使う小屋があった。木材の屋根瓦の掘っ立て小屋であり、林業の道具置き場としても用いられていた。高さは人二人分程度。隣には見上げるほど大きな樹木が一本立っており、そこにまで届くような高さがある。古ぼけたどす黒い茶色の造り。所々に節の穴がある。人が二、三人眠れる程度の広さの部屋だ。扉に鍵はかかっておらず、中には入ると、囲炉裏はおろか何の道具すら一つして見当たらないかった。窓もない。ともかく、一次避難することとした。

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