所詮、君は隣人さん

くろきろく

プロローグ そして英雄が誕生した


「やったぞ、やったんだ。あいつが死んだ!英雄の誕生だ!」


雲ひとつのない晴天に似つかわしい歓声を挙げる群衆は、荒れ果てた街中で抱き合い、嬉し涙を流していた。


崩れ果て瓦礫と化した街並み。


鼻にかすめる血の匂いと赤と灰。


自らの怪我を省みることなく喜ぶ人々の足元には無数の遺体が転がり、空模様とは売って代わりその光景は正に異様だ。




「奇跡だ!奇跡が起きたんだ!」




誰かが歓喜の声を挙げ、一層盛り上がりを見せる民衆達の声は、宮都の象徴である十三魔導塔の頂上まで届くほどに大きく、上の空な青年は乾いた唇を動かして、その声を否定した。



「……違う。奇跡なんか、じゃない」



頬に流れる大粒の涙は、床に広がる血溜まりに落ち、波紋が広がっては静かに消えていく。


「これが奇跡であるものか……これが、」


どこか怒りが含まれているその言葉は、悔しそうに唇を噛み締めることで途中で遮られ、力無く横たわっている彼の肩を力強く抱き、抱え込んだ。

血で汚れることを気にすることなく、冷たく青白くそして固くなっていくその体を、引き止めるように乱雑に抱き締め、悲痛な声をあげた。



「……こんなの、あんまりじゃないか」



絞り出すような声と共に、抱き締める彼の腕は震え、呼び止めるように名前を呼ぶ。



「目を開けろって、なぁ!ルカ!」



ピクリとも動かない瞼を見て、彼は置いていかれた子供のように泣き叫ぶ。


「頼むから……」


悲劇に悲しみ苦しむ彼の慟哭は、奇跡だと喜ぶ民衆の歓声に掻き消され、この日史上最悪の魔道士と恐れられたルカ・エイヴォリーが死去したと同時に、英雄が誕生した。

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