第10話 売買

 宇宙海賊を狩る。

 発生した残骸デブリから使えそうな物資を拾う。

 ツバメが大喜びで開発をして、俺たちは美味い飯に舌鼓したつづみを打つ。

 ここ数日は食後にスワローテイル号の内部に蓄積されていた旧時代の創作物”エイガ”なるものを観たりもしている。


 生活のメインはそんなもんだ。


『相手が権力者きぞくですからね……証拠もなしにズドンできないのが歯がゆいところです』

「良いんだよ。ニアちゃんのお祖父さんとの待ち合わせもそれほど急がないし、いざとなればスワローテイル号で一瞬だろ?」

『それはそうですが……やはり民衆を味方につけるだけの証拠を捏造ねつぞうし――』

「はい却下」


 時々、ツバメの方が俺より喧嘩っ早いんじゃないかと思う。

 こいつ本当にAIなんだよな……?


「あっ、タツヤさん。通信来てます!」


 少しでも役に立ちたい、と砲撃手兼通信手を買って出てくれているニアちゃんが通信端末を見て顔を輝かせた。


「通信繋いで良いですか!?」

「何か嬉しそうだな。エイガを観る予定は延期で良いのか?」

「はい! 『渡る世間はAIばかりファイル2』も気になりますけどエイガはいつでも見れますから!」


 うん、暇してたんだね。

 そりゃそうだ。

 ツバメ的には通信手とかをしてくれてるお陰でリソースをハッキングに使えるから助かってるらしいけど、ニアちゃんからすればモニター眺めてるだけだもんな。

 美味しいごはん食べるのと宇宙海賊を撃つくらいしかやることないし。


「繋ぎます!」

『こちらスワローテイル号。フジシロ屋代表のタツヤ・フジシロだ』

「応答に感謝する。こちらは総合商船アバランチ。訳アリな連中に割高な値段で何でも売りつける商売をしてる」


 嘘つかれるのもムカつくが、ここまで正直に仕事内容を告げるのもどうかと思うんだが。


『この星系の入出管理記録を横流ししてもらってるんだが、地上にも宇宙港にも移動記録がない』

「……お前、そんなこと普通に喋っていいのか?」

『客商売は信用第一だからな! 嘘をつかないのが俺のポリシーだ!』


 嘘をつかないのはともかくとして、犯罪行為をがっつり自白してるのは如何なものかと思うが。

 まぁでも嘘つきよりはずっとマシだ。


「ちなみにだが、宇宙海賊相手に取引したことは?」

『残念ながら俺は客の背景情報は聞かないことにしてるんだ。金を払うなら客。それ以外はゴミムシだからな』

「分かりやすい奴だな」

『だがまぁ、を要求したり支払いを踏み倒そうとするカスどもは嫌いだ。そういうのは何度も撃ち落としてきた』

「そういうことするのは食い詰めた傭兵崩れか宇宙海賊だろ?」

『背景情報は知らねぇって言ったろ。で? アンタらは客になれそうかい?』

「金はない」

『それじゃまたどこかで会えると——』

「待て守銭奴。金はないが、金になるものならあるぞ」

『……話を聞こうじゃないか』


 俺が差し出すのは先史文明時代の道具類。

 兵器や機械が一番だが、そうでなくとも先史文明の品は高額取引されるのが基本だ。


『もちろん、それだけ偽物パチモンも多いけどな』

「騙されそうだと思ってるのか?」

『馬鹿言うな。騙されたら報復しなきゃなんねぇ。割に合わねぇから嫌なだけだ』 


 スワローテイル号について見抜いたのかと思ったが、普通に弾薬やエネルギー代がもったいないそうだ。

 清々しいくらいの守銭奴である。


『先史文明時代の物だったら何でも買うぞ』

「ここから先は通信じゃなく、実際に取引したい」

『良いだろう。アンタらの宇宙船に小型艇をドッキングする。うちのモンを乗り込ませるから、ソイツに見せてくれよ』

「豪胆だな」

『アンタらこっちに来るならそれでもいいけど。無理だろ?』


 無理ってことはないがツバメを説得するのが手間だ。


『互いに初対面だ。武装は許可してくれ』

「お互いに、な」


 通信を切ってすぐにツバメに指示を出した。


「タツヤさん。何を売るですか?」

「エイガの記憶媒体」

「エッ!? 後で観ようと思ってたのに! エナリー捜査官がどうなったか気にならないんですか!?」

「ああ、違う違う。俺が売るのは『渡る世間はAIばかり』じゃないよ」


 観終わったエイガを記録媒体に複製してもらって売る。

 先史文明の暮らしぶりを研究するための資料として価値があるはずだ。


「それなら『カードプレデターこすもす』とかどうですか!?」

「ああ、あれは面白かったな。でもバイオレンス過ぎるから『ウィンタータイムレンダ』にしようと思う」

「あれも面白かったです! あ、タツヤさんが見せてくれなかった奴も売っちゃえばいいんじゃないですか!?」

「『TSロリサキュバスの健全配信活動』か……あれは保留だな。とりあえずいくつか売ればそれなりの金額が手に入ると思うんだ。欲しいものがあれば頼んでみるぞ」

「えっ……いえ、もうたくさん良くしてもらってますので……!」

「そうか。まぁ何かあったら言ってくれ。割高な商売が成り立ってるんだしそれなりに品ぞろえは良いと思う」


 ニアちゃんに欲しいものがないなら、俺の注文は決まっている。

 良い買い物になることを祈ろう。


TIPS(読まなくて大丈夫です)

※『渡る世間はAIばかりファイル2』

エナリーと盛田モルダが宇宙食堂艇『幸棚コウラック』で旅をしながら科学では説明できない未解決事件を捜査していくサスペンス・エイガ。

何でも科学で説明しようとするエナリーに対し、外宇宙から電波を受け取り感情を得たAIの仕業だと言い張る盛田モルダのコンビが人気。ファイル27まで存在する。

盛田モルダ……あなた疲れてるのよ」というエナリー捜査官のセリフが有名。


※『カードプレデターこすもす』

古い本棚に封印されていた黒歴史やみのけものの封印を解いてしまった小学生こすもすちゃんが兄や父の厨二病に向き合い、カード型に加工して封印ラミネートしていく物語。最終回では宇宙そらから封印ラミネートカードをバラ撒いて兄と父を悶絶させていた。

こすもすちゃんの『絶対大丈夫なんですか? 根拠は?』という台詞と冷たい視線が一部のお友達にド刺さりした名作。


※『ウインタータイムレンダ』

好きな子と幼馴染がゴールインし、結婚式に呼ばれた主人公は、特殊能力BSSを駆使して何度も時間をループ、自分と結ばれるまでやり直す!

一見すると純愛っぽいけど失敗するたびに自○してループする姿と、何が何でも好きな子と幼馴染を結婚させない執念はナチュラルに病院行った方がいいんじゃないかと話題に。


※『TSロリサキュバスの健全配信活動』

作者の別作品。面白いよ! 読んでね!


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