第8話 一蹴

『広域レーダーに反応在り。武装勢力を確認しました――装備が雑多ですね。おそらく宇宙海賊かと』

「……宇宙海賊?」

『治安維持組織ならば同型機に乗り、同じ装備を操るものでしょう』


 宇宙港の入出管理は区分で言うなら役所。つまり公務員だ。

 それが、初手で宇宙海賊?

 アイツの口ぶりからすると、俺に濡れ衣を着せて警察組織に取り締まらせるつもりだったんじゃないのか。


「やることは変わらない。自分から焼却されに来るなんて、行儀のいいゴミだな」

『マスター、敵戦艦より通信要求』

「……一応繋いでやれ」


 モニターに映ったのは、ムサい男。今までの宇宙海賊どもよりは小ぎれいだ。

 マナーがなってるゴミだ。


『こちらクラッドゲート、団長のベスタ。所属不明の戦艦に通信を要求中。応答されたし』

「こちらフジシロ屋。貴艦隊の目的を述べよ」

『目的を述べよ、か。俺たちの目的はお前さんたちがお宝の奪還だ』

「……何?」

『宇宙海賊に奪取された古代文明の遺物。アンタらがそれを回収して持ち去ったのは聞いている。こちらは25艦の武装艦隊だ。大人しく渡してくれるならば撃沈まではしないと約束しよう』

「騙されてるぞお前ら」

『何?』


 ツバメに命じてデータを送らせる。

 デブとの通信だけでなく、ニアちゃんを保護した時のデータも一緒だ。

 しばらくの沈黙。


『……このデータが本物だという確証は?』

「ないな。お前らが宇宙海賊じゃないと証明できないのと一緒だろ」

『違ぇねぇ』


 おっさんは笑った。


『済まないな。こちらも仕事だ』

「じゃあ死ねよ」

『喧嘩っ早いな』


 ガハハ、と笑って通信が切れた。

 戦闘開始だ。

 運送業で使われていた頃、傭兵団が顧客になったこともある。

 大型兵装や弾薬の輸送はクソほど重くて面倒だったが、その時に学んだことがある。

 傭兵稼業で一番大切なのは言うまでもなく実力。

 二番目は黒字経営ができるだけの計算力。

 そして最後は——舐められないことだ。


「ここはド派手にぶちかましたい。だが相手は宇宙海賊じゃなくて傭兵団。できれば撃沈まではしたくない」


 俺の言葉に、ニアちゃんは首をかしげた。

 

「威嚇射撃は、どーですか?」

「良いな、それ。なるべく派手なのでいこう」

『かしこまりました。現在、最大出力は2・27%ですが、主砲は如何でしょうか』

「2・27%って……それで撃てるのか?」

『はい。古代兵器のシールドを貫くのは難しいでしょうが、この時代の科学水準ならば十分対応できるでしょう』

「ほんと、出鱈目だよな……」

『誉め言葉として受け取っておきましょう』


 本来はすることすら可能な一撃らしい。

 本来は多くのセーフティーが掛けられているらしいが、認可を出すべき政府も、承認を決議する議会も存在しない。

 俺の判断一つで使い放題である。


「主砲、封印解除」

『――封印解除』

「エネルギー充填」

『――エネルギーの充填を開始します』

「主砲の軌道を計算」

『――軌道を計算。モニターに表示します』


 モニターに表示された多数の項目を確認しながら狙う位置を慎重に決めていく。傭兵団の船など、かすっただけで蒸発するだろう。


『充填率が目標に到達しました』


 目の前に出てきた銃把を握りしめ、引鉄トリガーに指を掛ける。


 スワローテイル号。

 その左右から突き出た槍の間に力場が形成される。

 バチバチと紫電を放出しながらエネルギーが変換されていく。

 13枚もの魔法陣が描かれ、宇宙空間にまばゆい輝きを放った。


「主砲――”惑星砕きスターブレイカー”、発射」


 光が生まれた。

 全てを掻き消す、強烈な光が。


 その軌道は傭兵団の艦隊をように設定されている。

 光がはしり、艦隊の遥か背後にあった小隕石群を蒸発させた。


 シミュレーション内では最後まで使用許可が下りなかった代物だ。

 それも納得してしまう威力だった。


 目を丸くしたニアちゃんに気分が良くなる。

 そして、ド肝を抜かれたのはニアちゃんだけじゃない。

 

『こちらクラッドゲート傭兵団、ベスタ。貴殿への敵対行動を謝罪、撤回したい』

「俺の出した証拠は偽物かもしれないんじゃなかったのか?」

『信じるよ』


 正しい判断をしてくれて何よりだ。

 報酬と俺たちへの敵対を天秤にかけ、赤字にならないほうを選んだのだろう。


「撤回を許可する」

『感謝する。――ッ!? 済まない。麾下きかにあった4艦が武装解除命令を無視してそちらに向かっている!』

「それで? 撃墜しないでくれとでもいうつもりか?」

『……説得を続けるが、そちらの射程に入り次第撃墜してもらっていい。だが、現在停戦している艦隊を見逃してもらえないだろうか』

「現在地から500キロメルトル下がって待機していてくれ。逃亡は敵対と見なす」

『……了解した。離反者を出さないよう全力を尽くす』


 いなくなれ、ならばともかく交戦宙域から離れ、その後待機の指示だ。

 何を要求されるか分かったもんじゃないと考え、逃げたくなるのが普通だろう。

 ベスタは正しく判断ができるようだが、部下も同じとは限らない。


「安心しろ。離反ようにしてやる」


 言葉と同時、操縦桿を握る。


「高速機動戦艦の実力を見せつけてやる」


 シミュレーション内部では地獄みたいな宙域に放り込まれた。何度ゲームオーバーになったげきついされたか覚えていないが、それでも体感で20年のキャリアである。

 

 スワローテイル号の背後に複数の魔法陣が現れる。

 それらが砕けると同時、静止していた機体が弾かれるように飛び出した。


「敵対している艦隊をマーキング」

『――致しました』

「仕事が早くて助かる」

『次いで、敵対艦隊の通信もジャックしております』


 本当、至れり尽くせりだよ。


『クソ! 早いぞ!? 何だあの動きは!』

『だから反対だったんだよ!』

『お前らだってベスタの野郎が気に入らないって言ってただろ!』


 言ってる間にもう射程だ。


『突っ込んでくるつもりか!?』

『撃て! ありったけ撃ちまくれ!』

『あの速度だ! ちょっとバランス崩せば立て直せねぇはずだ!』


 スワローテイルを舐めるなよ。

 視界を埋め尽くす量のレーザーならばともかく、だたの実体弾頭なんて攻撃のうちに入らない。

 当たったところで装甲にすすがつくかどうかというレベルである。


「とはいえ、雑魚にスワローテイルを汚されるのもしゃくだ」


 操縦桿を振り回す。こういう時ですら、俺やニアちゃんにまったく負荷がかからないのはさすがだ。


『ハァ!? 俺たちの攻撃を避けてるのか!?』

『人間の動体視力じゃねぇ……!』

『何なんだよ畜生ォ! スピードすら落ちてねぇぞ!』

『に、逃げろ……!』


 そんなの許すわけないだろ。


『あの速度なら射撃チャンスは多くない! シールドを全エネルギーを回せ!』

『回避に全力を注げ! その後は全速離脱す――』


 全速で走り抜けるついでに射撃。


「まずは一機、と」

『射撃も上手ェ!』

『今だ! 逃げるぞ!』

『急いでズラかれ!』


 制動は掛けず、走ったまま機体を反転させる。

 遠ざかりながらさらに射撃を二回。


『こ、降参するぞ! 今すぐ回線を繋――』

「これで終わり、と」


 最後の一機を撃墜した。


「あ? 他の奴らも移動してねぇな。敵対――」

『マスター、マスター。普通の戦艦が移動できる時間はありませんでした』


 なるほど。

 じゃあ許してやるとするか。ギリギリで。

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