第23話 義妹を拾い、ラブホへ

 あの場所にいる。

 亞里栖はまた戻ってしまった。理由は分からない。


 なんで、わざわざ……!


 親父が逮捕されたとはいえ、知らん男が寄ってくることには変りない。それに、警察に目をつけられたら今度こそ補導では済まない。最悪逮捕されるだろう。


 止めなければ。


 武蔵の力を借り、街まで車を出してもらった。



「到着しました」

「ありがとう、武蔵。先に帰ってくれ。必ず帰るから」

「……分かりました。緊急時はご連絡ください」


 俺は礼を言って車から降りた。

 ここからなら例の現場は近い。

 徒歩で向かう間にも俺はスマホで連絡をかけまくった。だが、繋がることはなかった。

 そうか、そこまでして俺に拾って欲しいか。


 いいだろう。

 必ず拾ってやる。


 走って俺は“あの場所”へ向かった。


 もうすぐ。

 もうちょっとで到着だ。


 辺りはすっかり夜。

 サラリーマンの雑踏で賑わう繁華街。その裏道を俺は駆け抜けていく。


 立ちんぼで有名な通りに辿り着いた。


 少し前に逮捕騒動があったというのに、まだそれなりに女性が立っていた。


 その奥に亞里栖の姿が……む。


 もう交渉を受けているのか。

 知らない男に声を掛けられていた。だが、俺は気にせず邪魔した。


「おい、亞里栖! またこんなところで何をやっている」

「……待っていたよ、両ちゃん」


「な……なんだって?」


 亞里栖は、交渉相手の男を無視して俺の腕を取った。

 もちろん、男は俺に抗議してきたわけだが……。


「ちょ、まてよ。まだ俺が話しているだろうが! そんな可愛い子を取られてたまるかってーの」


「うるせぇッ! この子は俺の義妹なんだよ! 警察に通報するぞボケナス!」


「――なにィ!? そ、そうだったのかよ。だったら、なんで立ちんぼなんてしてんだよ……」


 その理由は俺が一番知りたいね。

 男を無視して、俺は亞里栖を連れて現場から離れた。同時に、警察がマッハで飛来してきて俺は冷や汗をかいた。


 あ……あっぶね。


 また取り締まりのタイミングだったか。

 そりゃそうだよな。

 この辺りはずっと放置されていた場所だ。

 いよいよ対応を厳しくしていくのだろうな。


 繁華街へ戻った。



「亞里栖、捕まらなかったのは……運が良かっただけだ」

「かもね」

「少しは反省しろ。俺が迎えに来なかったらアウトだったろ」

「両ちゃんを待っていたんだよ。さっきのはナンパされただけ」


「だからって、あの立ちんぼの現場じゃなくてもいいだろ! てか、月島家で大人しくしていろよ。危ないだろうがっ」


 俺としてはもう、亞里栖には立ちんぼをして欲しくない。待ち合わせだとしても。

 しかし、なぜ連絡を絶ってまでここを選んだ……? わざわざリスクを取る意味が分からなかった。


「……ごめんね」

「謝るくらいなら、最初からするなって」

「でもね、したいことがあったんだ」


「え……なにを」


「ラブホ」

「……は?」



 脳が一瞬停止した。

 亞里栖はなにを……って、まさか!

 そうか、それで俺をわざわざ困らせて、あんな場所で待ち合わせを。

 な、なるほど……月島家では大胆に出来ないからな。


 ようやく亞里栖の気持ちを知れて、俺は顔を抑えた。


 なんだ、そんな単純なことだったんだ。



「だって、わたしから言うの……恥ずかしかったから」



 本当に恥ずかしそうに頬を赤らめる亞里栖。そういうことか。まさか亞里栖から求めてくれるとは思いもしなかった。



「シ、シたかったのかよ……」

「…………う、うん。だって月島さんの家では……ヤりづらいじゃん……」



 一度しちゃったけどな!?

 あの時もハラハラしながらヤったものだけど。

 確かに、瀬奈さんや母さんたちもいるからな……。それに、俺と亞里栖の関係がバレたら、追い出されるだろうしなぁ。


 婚約の件もまだ話がついていないし。



「分かった。じゃ、ラブホ行くか」

「うん! 他のラブホへ行こう。もっといろいろ見てみたい」

「お前、すっかりラブホにハマってるな」

「だって楽しいじゃん!」

「そうだな。もっと楽しもう」



 俺は亞里栖の手を握った。

 二人きりでラブホを目指す。


 ……ああ、そうか。そうだった。俺は亞里栖が好きなんだよ。こうしたかった。ずっとずっとこうしたかった。


 また義妹を拾えて良かった。


 さあ、行こう。ラブホへ。

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