第7話 またあの場所で義妹を拾う

 家にはいない。

 どこを探してもいない。

 亞里栖はどこへ消えた……?


 やはり、今夜“あの場所”へ向かうしかないのか。


 日が沈むのを待ち、俺は立ちんぼの現場へ向かった。すると、同じ場所に亞里栖が立っていた。本当にいやがった。

 そこで待たなくても良い気がする。

 やっぱりというか、誰かに話しかけられているし。


 すぐに駆け寄り亞里栖の腕を掴んだ。


「あ、両ちゃん……! 早いね」

「早いね、じゃない。なんで、わざわざこの場所が待ち合わせ場所なんだよ」

「きっと来てくれるって思ったから」

「ここじゃなくてもいいだろ。家とかさ」

「ここがいいんだよ~」


 出来ればこの場所は止めて欲しい気が。

 他人の目もあるし、男どもがヨダレを垂らして亞里栖を注目している。こっち見んな。

 横から入ったせいか、交渉していた人が俺をにらんでいるし。

 うわ、よりによってチャラ男だ。ちょっと怖そうな人だなあ。


「なんだ、アンタ!」

「す、すみませんね。この女の子、ウチの義妹なんです」

「え……マジかよ」

「もう帰るので」

「いやいや! こんな可愛い子を逃せるかってーの。てか、本当に兄なのかよ。証拠あんのか!」

「本当ですよ。俺たちに構わないでください」

「証拠がないなら、そうはいかないな」

「なに……?」


 男は握り拳を俺の目の前につきつけてくる。コイツ、まさか暴力を……。

 寸止めでしつこく威嚇いかくしてくるし、だるいな。このままでは暴力沙汰に発展しそうだ。


 どうする。

 亞里栖にカッコ悪いところを見せられないし、このまま渡すつもりもない。


 だが、ケンカが強いわけでもない。

 反撃したところで俺がボロ雑巾ぞうきんになるだけだろう。

 その未来しかない。


 ならば、知識を最大限に活かす。


 そうだ。必殺技アレしかない!

 亞里栖に驚かれるだろうが、恥は捨てる。


 よし、いくぞ……!



 俺は、ズボンに手をかけ、男の目の前で脱いだ! 服も脱いで地面へ投げ捨てた!


「んふぁ!?」


 ビビって変な声を出す男。

 異様にモッコリしたボクサーパンツ一丁の俺の姿に引いていた。

 顔面蒼白で今にも吐きそうな表情だ。


 そう。

 

 俺の必殺技とはパンツ一丁になって威嚇いかくすること。この状態で更に!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 男を襲う勢いで突進する!

 イノシシのように猪突猛進する!


「うあああああッッ! ガチムチかよおおお!」


 さすがの男も俺に恐れをなし、逃げ出した。



「りょ、両ちゃん。恥ずかしいって……」



 顔を赤くして引き気味の亞里栖。

 当然の反応だ。だが、俺に後悔はない。だって、義妹を魔の手から守れたのだから。


「海外の動画であったんだよな。ケンカになった時に全裸になって相手を戦意喪失させるヤツ。ほぼ全員が逃げるんだ」


「なにそれ……ただのガチムチじゃ」


「でも、効果的だったろ?」

「確かに、急に全裸になられたら恐ろしいわ」

「そうだろ」


 ともあれ、亞里栖を救うことができた。

 だが、ここは兄として注意してやらねば。

 もうこんな場所に来ないように。

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