第三章 裏世界のデスゲーム
第14話 梅雨のある日
六月になった。梅雨に入り、室内で暮らすことが増える。雨の中だと、出かける気分が出づらいことが理由だ。そういうわけで、私はベッドでごろごろとある動画を視聴して、時間を潰している。アマチュアが製作した映像作品「忘却デスゲーム」が話題になっていたので、それを見ている。敗北は死に繋がり、人々の記憶から消える。勝者はかつての罪や犯罪などを消すことができる。どちらも忘却するからこその名前なのだろう。私はそう思っている。
「あれ……ここはどこ?」
動画の序盤は主人公の黒髪の女子高校生が起き上がり、参加者がひとつのフロアに集まる。ここで初めてデスゲームであることが明かされる。ゲームマスターがルール説明し、勝利条件を達成した者が次のゲームに進むことが出来る。出来なかった場合は、死という罰を受ける。その繰り返しである。
「お前達は小さかろうと、大きかろうと、罪を背負っている」
全ての忘却デスゲームのゲームマスターは性格の違いはあるが、共通したことを言っている。生と死。記憶と忘却。現実世界のようで、ファンタジー要素を含む世界観だから、確実にゲームマスターは人外だろう。大学の友人がそう考察していたことを思い出す。
「さあ。生き残りをかけたゲームをやろう」
今回のゲームマスターの声は渋いおっさんそのものだ。いや。演技力を感じさせる何かがある。アニメで聞き覚えがある。そう思って、一度停止をして、出演者を見る。有名声優だった。あなたは何をしているのだと心の中で突っ込みを入れて、視聴再開だ。
「ファーストゲーム。裏切り者を探す遊戯、馴染みがあるだろ? 人狼ゲームだよ。君達の端末に情報を送った。それを元に話すと良い。頃合いを持って、裏切り者だと感じた奴を投票することだ」
主人公達は会話をする。共通の話題を持っている中、一人だけ違う情報を持っている。やったことがある。話し方次第でバレてしまう。どれだけ周りに合わすことが出来るかが焦点だろう。
「大きいとこだと、最高にスリルなんですよね」
「うんうん。小さい時にパパと一緒に滑ったかな」
「チャリで行った」
公園によくある滑り台をキーワードとしているのかもしれない。最高年齢らしいおじさんキャラも頑張って、付いて行こうとしている。
「冬にやらかしたことがあった。服が濡れた」
「ちょ。あほだ」
黒髪のジャージ姿の男のやらかし発言に、金髪ギャル娘が噴き出す。同じ金髪のイヤリングをした、入れ墨の若い男が発言をする。
「おいおい。そういうのは冬にやるものじゃねえだろ。こういうのは夏だろ。水の勢いとよ」
空気が静かになる。滑り台でも微妙に違っていたのだ。大部分は公園などにある遊具の滑り台で、チャラ男だけがウォータースライダーだったのだ。
「あ。いや。ちが」
裏切り者が分かった。だからか、誰もがチャラ男に投票する。ゆっくりと探るつもりが、あっさりと露出するとは思わなかっただろう。恐らく。
「集計が早かったな。照山獅子。お前は死に、全てが消えることになった」
ただでさえ有名どころの声優の声なので、迫力が凄いことになっている。どこからか現れた鎖が首や胴体などを巻く。電気ショックを与えて、照山という男は死んでしまった。
「後に弔い、消え去る儀式を執り行う。故に、君達は次の会場に行くが良い」
デスゲームは一人になるまで行う。連鎖していくことだってあり得る。何も分からないまま、人を疑いながら、進めていく。ごくりと飲んでいたのだが。
「ピーピーピー」
炊飯器の終わりの合図で、私は現実に戻る。昼の準備をしていたことに思い出し、台所に向かうのだった。
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