令和陰陽奇譚

橘三つ

第1話 鳴間綴の七月二日①

 分岐路にある二本の道は、Y字の上部のように広がっていた。


 ど真ん中には神社がある。扇のような形をしていて、持ち手の部分には鳥居があった。添えられている小さな石柱には『三叉路神社』と掘られている。


 三叉路神社はまるで森かと疑ってしまうほどたくさんの木が植林されていた。まるで人工森林のようで、街中には不釣り合いで、ここだけが別世界のような雰囲気を持っていた。


 鳥居の内側には高校生にも大学生にも見える巫女がいて、日陰の中で箒を手に掃き掃除をしていた。


 肩まで伸ばした金色の髪の中には、ぱっちりとした二重の目と小ぶりな鼻と口が収まっていた。整形手術のサンプルかと疑うほどの黄金比だった。


 初夏と呼ぶにはまだ早い七月二日だったが、木が多いからだろう、居付いた蝉はみーんみーんと鳴いていた。


 巫女は箒を刀のように片手で持つと軽く振るった。片足で地面を強く踏むと、そこを箒で掃いた。飛び掛かって来た蝉を打ち落とし、踏みつけて殺したようだった。

 

 残酷すぎんだろ……。と、鳴間綴は顔を逸らして分岐路を右へ抜けようとしたが、箒に遮られた。踏切の遮断棒のようだった。


「顔見知りを無視とは薄情なやつだな」


「朝から巫女が蝉を殺してる現場とか見たくねーじゃん……」


「蝉は嫌いではないが、ここは森のような場所だろう? やつらの棲家にちょうどいいのか、群れて侵略してくるのだ。された側の気持ちも考えてくれ」


「俺からすれば、夏の風物詩。蝉殺しの巫女になる理由にはならない」


「その二つ名。なんかかっこいいな……」


 ふんふん、と、葉子はまた箒を刀のように数回振るった。


「じゃあ、名乗れよ。似合ってるし」


 そう言わせる程度には様になっていた。葉子は、顎をしゃくってから見下すように綴を覗いた。機嫌がいいときの合図だった。


「ふふん。頂いておこう」


「やるやる。学校、行ってくる」


「翌朝も顔を出してくれよ。綴と話すと、その日は体調が良くなるからなぁ。その綴に対して私も二つ名を与えたいが……思いつかない。考えてほしい」


「俺は自分に二つ名は付けない。そういうのは卒業したからな」

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