崩壊寸前の帝国の指揮官を押しつけられた俺、完全に諦めモードだったけど勝利すれば美少女王女と結婚できると聞きつけ覚醒する

あきらあかつき@5/1『悪役貴族の最強中

第1話 詰んでます

「ルーク・ルップル、貴殿をミルデシア帝国連合陸軍大将、及び元帥に任ずる」


 セントリキタバーグ。100万人を要するこの大都市は大小30もの領地を擁する大帝国ミルデシア帝国の帝都である。


 世界でもっと巨大なエルデ大陸の2/3以上を占めるこの巨大な帝国を統治する皇帝ルイドン五世が居を構えるのが、今俺ルーク・ルップルがいるデリダ城である。


 巨大な球技場が軽々10個は作れそうな広大な敷地にそびえ立つこの堅固な巨大構造物は市民に威圧と安泰の気持ちを与えるのには十分だった。


 そんな帝国の象徴であるデリダ城の謁見の間。


 まるで中央教会の大聖堂と見間違うほどに広い謁見の間は複数本の石柱によってドーム型の天井がしっかりと支えられており、中央に伸びる真っ赤な絨毯には埃一つ見当たらない。


 その絨毯を進んだ先は数段高くなっており、そこには装飾の施された椅子が置かれていた。


 玉座だ。その玉座に腰を下ろして肘掛けに腕を置いているのがルイドン5世である。


 そんな彼の前方には、彼を護衛するように複数人の側近、および文官たちが立っていた。


 そのさらに前方でぽつりと一人、跪いたまま微動だにしない軍服姿の若者が俺である。


 俺をミルデシア帝国連合陸軍大将、及び元帥に任ずると告げた文官の言葉に返事は決まっている。


「謹んでお受けいたします」


 これ以外に返事はない。なにせ俺を陸軍大将及び元帥、つまりは帝国陸軍の最高指揮官に任命したのは皇帝なのだから。


 これをお断りしようものならば、皇帝の命に背いたならず者としてその場で首を落とされても文句は言えない。


 まるで定型文のようにそう返事をすると玉座に座っていた皇帝は立ち上がり、俺の目の前まで歩み寄ってきた。


 跪いた俺の頭上に皇帝の気配を感じる。そして、周りの文官たちが皇帝がわざわざ俺に歩み寄ったことに動揺する様子も手に取るようにわかる。


「ルーク・ルップル」

「ははっ」

「この帝国の命運はそなたにかかっていると言っても過言ではない。帝国民の悠久の安寧のために戦ってくれ」

「ははっ」


 どうやら皇帝は俺に全幅の信頼を寄せているようである。


 一介の軍人相手に恐れ多いことだ。


「このルーク・ルップル、皇帝陛下のため、帝国民のために身命を賭して必ずや勝利を導いてみせましょう」

「うむ、頼む」

「ははっ」


 何度も言ったが、たった今、俺はこの広大なミルデシア帝国陸軍の最高指揮官になった。


 これは帝国で陸軍に従事する人間全ての憧れである。軍人として邁進する中でこの座に憧れたことのない人間はいない。


 そう言っても過言ではない、地位と名誉、全てにおいて憧れの存在。


 それが元帥という肩書きである。


 そんな全ての軍人の憧れである元帥という称号を手にした今の俺の感想を言ってもいい?


 心の中だからいいよね?


 ざけんじゃねえええええええええええっ!!


 それが今の俺の偽らざる気持ちである。


 正直なところ皇帝に土下座をされてもこんな役職を引き受けたくない。


 なぜかだって?


 そりゃこのミルデシア帝国が崩壊寸前の亡国だからだよっ!!


 あぁ……とんでもない役職を押しつけられちまった……。


 現在我がミルデシア帝国は戦争中である。そして、その戦争は内戦であり、内戦の相手は30の領地のうち直轄領を除いた25の領地である。


 現在、各領の諸侯たちが手を組んで皇帝を打倒しようと次々と兵を挙げていた。


 彼らは各地で兵を展開し直轄領へと次々と侵攻しているようだ。


 帝都を除く3つの直轄領は既に陥落寸前で他の領地も陥とされるのは時間の問題だろう。


 兵力、領土、民衆たちの思想などなど、俺たちミルデシア帝国は反乱軍と比べて圧倒的に不利である。


 正直なところ何をしてもしなくても帝国の崩壊は時間の問題だろう。


 そんな中で俺はこの風前の灯火であるミルデシア帝国陸軍の最高指揮官に任命された。


 この意味がわかるか?


 要するに俺は責任だけを押しつけられたってことだ。軍内でも有力者は次々と反乱軍に投降、もしくは亡命をし始めている。


 はっきり言って誰も矢面に立たされるようなことはしたくない。


 そんな中、一介の少将であった俺に白羽の矢が立った。若くて権力もない俺に全ての責任を押しつけて自分たちは責任逃れをしよう。


 その結果がこれである。


 そもそも俺は一年前までは少佐だったのだ。士官学校ではそれなりの成績は残したし出世は早いほうだとは思う。


 それでも別に大した武功を立てたわけでもないし、軍内での評価が高かったわけでもない。


 が、気がつくと上官たちは戦死したり逃亡したりと次々といなくなり、空位になった階級に俺が自動的に昇進していった。


 そしてついには陸軍元帥にまで上り詰めてしまったのだ。


 終わったよ……完全に俺の人生終わった……。


 何度だって言うが今のミルデシア帝国に勝機はない。帝都陥落も時間の問題だろう。


 戦争に負ければ俺は戦争犯罪人として処罰されるだろう。いや、もっとはっきり言えば首チョンパだろう。


 いや、考えれば考えるほど終わってるわ……俺の人生……。


 が、引き受ける以外の方法はなかったのか?


 いや、なかったな……。


 なにせ引き受ければ家族を優先的に国外脱出、逆に引きうけなければ家族に夜道に気をつけろと伝えておけと脅されたのだ。


 両親もそうだが可愛い妹ミユの顔を思い浮かべてしまえば断ることなんてできるはずもなかった。


 が、まあ引きうけてしまった以上はどうしようもない。


 もう来世について考えよう。今世はどう考えても詰んでいる。大人しく帝都が滅びゆくさまを眺めながら、来世では戦争とは無縁の……そうだな牧草を食べるだけで幸せな乳牛にでも転生することを願って過ごすことにしよう。


 そう心に誓った俺は謁見の間を後にするのだった。

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