イヴとミルクの物語① 『にじのぼうけん』

第1話 旅に出でる ６

「ふん。それがどうしたって言（い）うの。

そんな粉（こな）くず、きれいなだけで、何（なん）の役（やく）にも立（た）たないじゃない」

　ミルクが苦（にが）にがしくはきすてるように言（い）うと、リリスはおどいて言（い）いました。

「本当（ほんとう）に何（なに）も知（し）らないんだね。

にじの粉（こな）やかけらはきれいなだけじゃなくて、料理（りょうり）に使（つか）ってもすばらしい調味料（ちょうみりょう）になるし、薬（くすり）にもなるとってもきちょうな品（しな）なんだよ。

お母（かあ）さんが買（か）ったのはこれっぽっちだけどさ。それでもずいぶん高（たか）かったみたいだし、これだけあればたくさんの魔法（まほう）が作（つく）れるって言（い）ってた」

　ミルクのふわふわとした茶色（ちゃいろ）い左耳（ひだりみみ）が、ピクリと動（うご）きました。

リリスは話（はなし）を続（つづ）けます。

「シャロルが手（て）に入（い）れたのは、たしかに粉（こな）やかけらばかりだよ。

でもそれだって、ちゃんとしたジュエリーにもこう水（すい）にもなるさ。

もっと大（おお）きなにじの石（いし）なんてね、ダイヤモンドやサファイヤよりも、ずっと高（たか）いねだんで売（う）り買（か）いされているんだよ」

　一同（いちどう）は顔（かお）を見合（みあ）わせました。

「ただでさえシャロルの店（みせ）は、はんじょうしているのに、そんな目玉商品（めだましょうひん）が手（て）に入（はい）ったのなら、ネコ村（むら）のほうせき店（てん）はもっと人気（にんき）が出（で）ちゃうんじゃないかな」

　ポチがおそるおそる言（い）いました。

ミルクの店（みせ）にお客（きゃく）さんが来（こ）なくなったら、かわいそうだと思（おも）ったのです。

「ミルクの店（みせ）だけじゃないわ。

シャロルから粉（こな）を買（か）った動物（どうぶつ）が、それで料理（りょうり）を作（つく）ってレストランで出（だ）したら、わたしの店（みせ）だってお客（きゃく）さんがへってしまうかもしれない」

　今度（こんど）はイヴが不安（ふあん）げに言（い）います。

みんなは話（はなし）にむちゅうになり、せっかくのコーヒーは、いつの間（ま）にかすっかり冷（さ）めてしまっていました。

「それなら、こんなのはどうだろう。

あのね、二人（ふたり）ともシャロルからにじの粉（こな）を少（すこ）し買（か）ったらいいんじゃないかな。

そしてそれを自分（じぶん）の店（みせ）でも売（う）ったら……」

　ポチが言（い）い終（おわ）わらぬうちに、ミルクが立ち上がって、目（め）をきっとむきました。

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次回の掲載は２０２４年５月８日です。

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