葛藤
「……」
「……」
クルスの言葉に対して、僕なりの答えを出した後。
自分たち二人の間に訪れたのは沈黙だった。
僕が魔道具店の陳列作業の続きを行い、クルスはクルスで一人、佇んでいる……ど、どうしよう。開き直って責任から逃げるという最低のムーブしたこともあってクルスに向ける顔がないよ。
でも、仕方ないじゃないか……!割と僕はもう、当主なんて出来る気がしないんだよ!
「ノア様」
そんな中で、クルスが僕の方へと話しかけてくる。
「んー?」
「私は貴方を当主にします。よろしいですね?」
「それを止めるつもりはない。さっきも言ったとおりだよ」
罪悪感を抱えながらも淡々とした態度を見せる僕に対して。
「……すみません」
クルスが告げてきたのは謝罪の言葉というちょっと予想を超えてくるものだった。
「んっ?あっ、はい?何が?」
「んー?何でもないよー。うしっ!それじゃあ、他の面々呼んでくるわ」
「お、おぉ?」
そんな僕へと困惑を与えてきたクルスは再度、その態度を豹変させていつもの飄々としたものを見せてくる。
それに対して、こちらはただただ困惑することしかできない。
「私たちは宿屋暮らしをしていたから、全員で移動してくるのは簡単だよ。あの几帳面なトアを中心にしっかりと整理整頓しながら暮らしていたこともあって荷物をまとめるのも簡単だろうね」
「う、うん……そうなんだ。それは良かったよ」
そんな僕をさておいて話を進めていくクルスの言葉にとりあえず頷く。
「それじゃあ、待っていて。あっ、それと夜ご飯の買い出しもしておいた方がいい?どうせなら、今日の晩飯は豪華なものにしない?」
「んっ、あっ、いや……買い物はひとまずいいかな。うちの家の方からいい感じの食材を貰ってくるから。今の僕なら侯爵家当主の方より、何から何でも引っ張ってこられるような状況にあるからね」
「おぉ、それならよかった。うめぇのを頼む!」
「う、うん」
「それじゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
結局のところ僕は終始困惑したまま、魔道具店から出ていくクルスを見送るのだった。
■■■■■
クルスが他のみんなを呼びに向かう道中の中で。
「……何をしているんだろうな。私は。もう二十歳も後半だというのに。まだ子供であるあの子に全部を背負わせて。あぁ、私は、私は……クソっ。あぁ、それでも」
クルスはもう既に大人である。
それでも、幼き日に見た絶望の色は今なお色褪せていない。
彼女の足取りはもう、止まることが出来ない位置にまで進んでいた。
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