第25話 愛する人を抱き上げる

身分なんかどうでもいいくらい、ルーカスの腕の中は温かくて、すごく安心できた。

まるでルーと一緒に居たときみたいに、嬉しかった。

けれど、上手くいくはずなんかないって分かっている。王子と庶民では格差がありすぎるのだから。


「こんな汚れた使用人なんか連れて帰って、叱られても知らないから」

「妻を連れ帰れば、盛大に迎えてくれるだろう」

「……今度こそ、牢獄行きだわ」


きっと私なんかルーカスに釣り合わなくて、オクタヴィア王都でも使用人にされるだろうと、どこか諦めにもにた感情のまま、私はルーカスに抱きしめられる。

それでも、抱きしめられる温もりはすごく温かくて、幸せだった。

大好きだったルーがここにいる。それだけで嬉しくて涙が出そう。


「ところで、フォリアは愛していると言ってはくれないのか?」


ルーカスは告白したが、私からはまだ何も聞いていないと、文句を呟く。さっきの告白はルーに対してであり、ルーカスではないとなぜか拗ねる。

謁見の間には王様、エリオット王子、ほか大勢の人がいるのに、ここで私に愛を囁けと要求するの?! って、目を見開いてしまう。


(ただの使用人が、ルーカス王子に告白なんかできるわけないじゃない)


恥を知れって、全員から睨まれると、恐怖は頭の上まで浸透する。

それなのに、ルーカスの要求はそのままエスカレートして、


「口づけを交わしても構わないか?」


(口づけ!! な、何考えてるのよぉ)


キスを求めてきた。

恥ずかしさと恐怖で、顔色は青色や赤色に変わって、頭の中はぐちゃぐちゃになってしまって、もうまともに考えが纏まらない。

魚みたいにパクパクと口を開けていたかもしれないけど、コレって何? もしかして夢なのかもしれないと、いきなり現実逃避。


「フォリアの口から、俺を愛していると聞きたい」


ギュッと抱きしめられて、ルーカスが本音を漏らす。

だから私は、ルーカスの耳元に口を寄せ


「ルーがずっと好きだった。大好きよ」


って、心にしまっておいた気持ちを打ち明けた。


「それは俺に対する気持ちでよいな」

「ルーはルーカス様なのでしょう」


同じ人なんだから、気持ちは一緒だと告げれば、掴んだ手を引き、私を立ち上がらせるといきなり抱き上げる。


「即刻国へ戻り、式をあげる」


俺は今世界で一番幸せ者だと、声をあげながらとんでもないことを言いだす。


(どうしていきなり結婚式になるの!)


まだルーカスのお父様の許可だって貰ってないし、私は使用人だし、そんな勝手に。と、驚いた私は、もっと大変なことに気づいてしまった。

それはルーカスの服に私の汚れた服が触れていたことだ。

埃や汚れがたくさんついた汚い服が、煌びやかな綺麗な服を汚している!


「下ろしてください!」

「このまま連れて行く」

「ダメ! 服が汚れちゃうからっ」


手を突っ張ってなんとかルーカスから離れようとするのに、力強く抱きしめられて身動きがとれない。


「服など気にせずともよい」

「ダメです。私は汚いから……」


髪も埃だらけ、服だってボロボロだし、触らないで欲しいと言えば、ルーカスはなぜかもっと抱きしめてきた。


「フォリアは綺麗だ」

「……そんなの嘘」

「では、俺もルーの衣装に着替えるとしよう」


ルーカスはルーを名乗っていた時の、使用人としての姿になると言い出して、私は慌ててそれを阻止する。次期国王陛下があんな姿をみんなに見せるなんて、絶対ダメだと。


「駄目です」

「怒った顔も愛らしいな」


クスッと笑うルーカスは、少し怒った私にそんなことを言う。


「揶揄わないでください」

「本心だ」


どうしてこの人は、恥ずかしい台詞を平気でいうのかと、ルーカスの顔が見れない。

そんなやり取りの最中、謁見の間のドアが再び開かれる。

入室してきたのはラーハルド王子。

入り口で一礼をしたラーハルドは、真っすぐに王様の正面まで歩くと、静かに腰を屈めて片膝をつく。


「お父様にお願いがあります」


凛とした声でそう切り出したラーハルドは、真剣な眼差しで王様を見つめる。


「如何様な願いだ」

「僕をオクタヴィア王都に行かせてください」

「なっ、んと」


ラーハルドはまだ17歳。親元を離れられる年齢ではなく、王様の顔つきが驚きとともに、険しくなる。


「僕は世界が見たい。ルーカス様の元で勉強がしてみたいのです」


正直に自分のやりたいことを話したが、それが許されるはずはない。ラーハルドは国を継ぐことはなくともオーフィリア国の王子なのだ、国を出るなどあってはならない。


「たとえ我が息子の願いとて、それは叶えられぬ」


当然の言葉が返り、ルーカスが私を抱きかかえたままラーハルドの後ろに立つ。


「ラーハルドの身は、ルーカス=アルフレート=ヴォル=オクタヴィアが引き受ける」

「どういう意味じゃ?」

「俺の傍に置き、知識を与える」


それでも問題はあるか? ルーカスは、自分の傍に置き、全てを守ると発言した。

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