解1-2-8:精神の同期(シンクロニズム)
地面が遙か下に見えているけど、落下するような感じはしない。そしてなぜかそれが本能的に分かっているから、焦ったり慌てたりすることもない。
さらに上下左右には半透明のディスプレイが浮かんでいて、指令室内の様子や外側から
「これが
実にシンプルというか、自由度の高い開放的な空間といった感じだ。
イメージしていたのはもっと機器が密集していて、レバーやハンドル、スイッチのようなものがたくさん付いているものだったから、この状況はかなり意外に感じる。
それにしても、ここに来てようやくラプラスターの外観を見ることになったけど、俺が日常的に利用していたコミュニティバスとほとんど変わらないんだなと初めて実感する。
また、それを認識した上だと、内部と外部が別物だというティナさんの説明も頷ける。
もちろん、理論とか仕組みとかは全く分からないけど、この状況を目の当たりにすれば大抵の人は事実として受け入れざるを得ないに違いない。
「さて、ティナさんたちとは会話が出来るのかな? どうすればいいんだろう?」
――と、俺が思いながら呟くと、正面の空間に半透明なディスプレイが新たに現れてティナさんやカナ兄、チャイ、ショーマの顔がそれぞれ映し出される。
『ヤスタケ、コックピットの様子はいかがですか?』
「驚きました。こんなに開放的な空間だなんて。それにティナさんたちと会話したいと思ったら、新たに現れたディスプレイにみんなの顔が映し出されましたし」
『はい、そのようにやりたいことや動かしたいことを思い浮かべれば実行されます。あるいは特定の操作を実行するボタンをあらかじめ設定し、それをタッチすることでも可能です。ただし、いずれの場合も明らかに実行不可能な命令や許可されていない挙動は除きますが』
「そうだったんですか。これが
『今やラプラスターとヤスタケは一心同体。便利な反面、ラプラスターが攻撃を受ければヤスタケ自身も痛みを感じます。そのことを忘れないでください』
ティナさんの言葉から察すると、
ラプラスターとバスの場合は融合して半永久的に一体化しているみたいだけど、それの一時的なバージョンみたいなものか……。
つまりラプラスターが敵の攻撃によって大きく破壊されれば、俺自身もおそらく死ぬ。仮想現実世界の中に入ってプレイするゲームに似ているけど、これは決して遊びじゃない。
俺はそのことを認識し、あらためて気を引き締める。
「ちなみになんですけど、俺たちの会話はチャイたちにも聞こえてるんですよね?」
『もちろんです。現在、アイとショウマはそれぞれ割り当てられた座席に座り、ラプラスターの操作のサポートを担当しています。その座席にはディスプレイがあって、ヤスタケの姿が映し出されると同時に会話など音声も出力されています。これはカナウの操縦席でも同じです』
「じゃ、チャイの陰口を叩こうにもバレちゃうわけか。それは残念……」
『っ! ヤッくん、何か言ったぁ?』
ティナさんの姿に割り込み、チャイの顔がディスプレイの中心に大きく表示された。ニコニコしているけど目は笑っていない。
……なるほど、しっかり声が伝わっているんだということをハッキリ実感。
でもそれなら簡単に弱音を吐いたり泣き言を言ったり出来ないという想いも湧いてくる。だってチャイには特にそういう情けない姿を見せたくないから。心配だってさせてしまうだろうし……。
『なお、意図的に会話や映像を切ることも出来ますが、私が必要だと判断した時以外はその操作を許可しません。指令室とコックピットにおける意思疎通の遮断は、外部からの脅威に対してリスクが大きいからです』
「対処に遅れが出て、それが致命的になることもあり得ますもんね。――で、俺はこのあと、どうすれば良いんですか?」
『
「そうですね、何もかもぶっつけ本番というよりは、少しでも動きを確認しておいた方が俺も安心ですし」
『承知しました。では、ヤスタケ。
「はいっ! ――ラプラスター、
俺がそう叫ぶと、ディスプレイに映し出されているラプラスターの外観は変化を始めた。そのダイナミックな動きを見る限り、どうやら
一方、コックピット内や司令室内は相変わらず何も動きが見られない。
当然、振動や音すらも伝わってこない。こうした点にもラプラスターの外側、コックピット、指令室のそれぞれが別々の空間に存在しているというのをあらためて思い知らされる。
(つづく……)
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