第三話「郷土料理」

 怖い話というか不思議な話というか、「なんであんな事を言ったんだろう」みたいな話なんですけど……


 数年前、友人とふたりで東北某所に旅行にいった時です。その時に泊まった旅館が「地産地消」をウリにしてるようなとこで、その地域独自の郷土料理のようなものが振る舞われたんです。友人の誘いで何となく付いていった私はあまり知識も興味もなかったものですから「いい匂いだな、美味しそうだな」くらいにしか思っていなかったんですが、友人の方は違ったらしく見るからにテンションがあがっている様子でした。で……食事をはじめて少しした時です。友人が唐突に、この地域一帯のことを話し始めたんです。いわゆる「地元トーク」というやつでしょうか。あそこの森には何々がいるとか、あそこの景色はすごく綺麗だとかを話し始めたんですけど……私、それを聞いて「あれ?」って思ったんです。
















 こいつ、ここ出身だったっけ?


 私が知る限りでは全然違うはずなんです、近くでもないんです。もっと別のところ。親族にこの辺り出身の人がいる、みたいな話も聞いたことがありませんでした。それに話してる内容がどう考えても、知識がないのでなんとも言えないのですが……古いんです。友人の言い方から察するに、少なくとも私たちが生まれてもないような時代の話なんです。それだけなら「事前に歴史を調べてきた」で済むかもしれませんが、友人はまるで自分で見てきたかのように話していたんです。そして最終的には祀られてる神様だとか言い伝えだとか、なんか「土着信仰」みたいな内容の話までしだしたんです。


 私はすごく不気味な感じがして怖かったんですが、楽しそうにしてる友人の話しの腰を折ってしまうのも悪いと思って、その場では適当に相槌を打って流すことにしたんです。


 そして帰り際になって聞いてみたんです。

「なんで、あんなこと知ってたの?」って。


 そしたら。











「そんな話……した記憶ない」って言うんですよ。


「じゃあ何の話をしてたか覚えてる?」って聞いたら、それはそれで曖昧で思い出せないんだと。






 でもね、ひとつだけ思い出せることがあるんですって。


 あの時、出てきた料理の匂いを嗅いで口に運んだ瞬間。
















 食べたことないはずなのに、なぜか「ものすごく懐かしい」気持ちが込み上げてきたそうなんです。






 前世の記憶でも、蘇ったんでしょうか。

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