第二章 旅立ちは程遠い
第11話 閑話 居残りガールズ①
二〇二五年一月某日朝(現在二〇二三年九月からおよそ一年四か月後)、日本異種族連合国首都、東京。そこにある世界で最も異種族が集まる高校、国立夢幻学園付近住宅街。
猫人族の少女が慌てた様子で人族の少女を追っている。猫人族の少女は人族の少女のハーフアップの長い髪を掴もうとするも、間一髪で逃げられてしまう。
「待ってよ、ころちゃん」
「うーちゃんのねぼすけさん。もう二〇分もしたらホームルーム始まっちゃうよ」
「いっつもごめんね、オレを起こしに来てくれて」
「だって、うーちゃんのお母さんからお願いされてるんだもん」
「純粋に私を想ってってわけじゃなかったんだ!?」
少女たちは、さも自分たちが危機的な状況にあることを忘れているかのように悠長に話している。
「まあ、頼まれてとは言ったけど、うーちゃんのことが嫌いだったらわざわざ待ってあげたりしないよ?」
「こ、ころちゃん…!!」
「…あ、あれ?今日、ここの道規制されてるんだけど?回り道しなきゃダメなヤツじゃない?」
「…ごめんね♡」
「…可愛く言えば私が怒らないと思ったの?」
「図星。やっぱりオレのこと分かってるね」
「…そもそも怒ってないから。ほら、行くよ」
二人は道を引き返し、足元で跳ねる水たまりなど気にすることなく走り出した。
*
「…ってことで、今日も
「分かったでございます、渡辺先生」
恭子――猫人族の少女――とこころ――人族の少女――は結局遅刻し、普段通り保健室で居残りをさせられていた。
「今朝は雨も降っていなかったし、何で遅れたでございますか?」
「実は今朝、道路に大きな穴が開いてたらしくて、規制されてたんですよ」
「道路に大きな穴?…もしかしなくても、二人の家ってここから東に一〇分くらい行ったところの住宅街でございますか?」
「そうですけど」
「よかった…。実は昨日、ちょっとかくかくしかじかあったのでございまして…」
「かくかくしかじか?」
恭子と一二三先生が話す中、こころは一二三先生の発言にオウム返しした。
「あ、これは秘密でお願いするでございます。知り合いが関わっていることだったから知っていただけで…」
「分かりましたよ、先生。ところで、今日って雨降る予報でしたっけ?」
「いえ、今日は降水確率一〇パーセントのはずでございますが」
「先生、あそこ見てください」
恭子の指さす先には夕日が校庭を照らす中、その光を避けるように木陰に傘をさしたまま座っている生徒らしき少女がいた。しかし、その傘は奇形で、先端部が槍のようになったものだった。
「あの娘、大丈夫ですかね?太陽の光に当たっちゃうと何かマズいんでしょうか?」
「いえ、そんな病気を患った生徒さんはこの学校にいないでございますよ」
「とりあえず、保健室に入るよう促します?」
「好きにすればいいでございますよ」
「あなたー、そこで何してるのー?」
一二三先生が許可をだすや否や、こころはその少女に向かって叫んだ。
少女は最初びっくりした様子だったが、やがて振り返り、自分を指さした。こころは大きく首を縦に振り、手招きをする。
少女は傘をさしたまま校舎に近づき、校舎の影に入るとやっと傘を閉じた。
「…私に何か用?」
少女は体調が悪いのか、やけに声が震え、小さかった。
「ねえ、オレたちとお話ししようよ」
「…お話し?」
「うん。キミ、寂しそうだったしさ。何かあるなら相談乗るよ?」
恭子は表情の硬い少女に向かって、優しく笑いかけた。
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