第7話 自己紹介②と怪しい教師たち

 全員が笑い終えた後、自己紹介を再開した。


「俺は烽火田葵のろしだあおい。三年生で、実は剣道部の主将も務めてるんだが、名前とか、中性的な声とか、挙げ句顔で美少女だと勘違いされる者だ。よろしく」


 翠は葵の顔をまじまじと見つめる。言われるまで美少女に見えるとは考えていなかったが、言われた所為で見えてきてしまう。


「いや、でも先輩はやっぱり男にしか見えないけど」

「ああ、そう言ってもらえるとありがたいぞ、後輩」


 葵が拝むようなポーズをとると、つくりが葵の肩を掴んで揺さぶり始める。


「お前が誰の男か教えてやろうか!?なぁ、どうだよ?!」

「分かってる、分かってるって!俺はお前に一途だよ!」

「…よろしい」


 創が肩を揺さぶるのを止めた頃、既に葵はフラフラになっていた。


「あてえは三車創みくるまつくり。葵と同じく剣道部だ。よろしくお願いします」


 創は礼儀正しくお辞儀し、二秒ほどして顔を上げた。


「そういやおさむさんよぉ、まだ自己紹介してねぇよな?」

「ただ順番待ちしてただけだ。今からする」


 身長が高く、体つきのいい青年が前に出てきた。


「俺は鉢合修はちあいおさむ。親父が日本魔法連盟の幹部なもんで、指折り数え程度の人間しか使えない魔法も使えるぞ」


 その口からは予想通り知っている名前が出た。彼は父親の威光で様々な立場に立ち、活躍しているが、父親の威光で自分が有利になっている部分に罪悪感を感じているという噂が有名になっていた。


「これで全員、自己紹介終わったね。それじゃあ、創ちゃんが言ったみたく、翠ちゃんにDJやっ」

「ちょっと待ったぁ!まだ私は自己紹介やってないんですけど!」


 蜜柑を遮った咲希は頬を膨らませ、不機嫌です、と全身を使って表現していた。それを見た翠は頬を緩ませる。


「まあ、翠さんが私を知ってるからやる必要ないのかもだけど。私は醬咲希ひしおさきです。改めてよろしくお願いしますね、翠さん」

「あ~かわいい~。心が~^(以下略)」


 ウインクした咲希に翠が飛びつき、またも笑いが起こる。


「それで、翠ちゃん。DJやってくれる?」

「私は構わないよ。むしろやらないと機材持ってきた意味なくなっちゃうし」


 蜜柑に答えると翠はステージの端、見えない場所から机を運び、その上にターンテーブルやノートパソコンを広げた。

 着々と配線同士を繋ぎ合わせ、数分してパフォーマンスできる状態になった。


「みんな、夜間外出許可は取ってある?一応、私も三十分くらいしかやるつもりなかったけど。確か、十時までに戻らないと罰則対象だし。それじゃあ、始めるよ」





 午後九時二十六分。それぞれが寮へと帰る途中、蜜柑は翠に話しかけた。


「いや~、楽しかったよ、翠ちゃん」

「蜜柑さん、いや、蜜柑ちゃん。そういえば、どうして【連合国調査団】なんて結成したの?」


 翠が質問すると、蜜柑は少し考え込むようにして目線をそらす。


「いや…。実はまだ誰にも話したことないんだよね」

「え?じゃあ、理由も知らないのにみんなここにいるってこと?」

「…うん、そうだね!」


 あっさりと事実を認める蜜柑に、翠は呆れる。


「まあ、可愛いからいいか」

「え?何て何て?」

「いや、ただ蜜柑ちゃんが可愛いって言っただけだよ」

「え~ちょっと、嬉しいこと言ってくれるじゃん!」


 蜜柑に抱きしめられ、よしよしされる翠。胸に顔をうずめた翠は、顔を押し付け、深呼吸をする。


「ど、どうしたの、翠ちゃん!?鼻息荒いよ?」

「あ、何でもないです。ありがとうございました」

「え?何かお礼言われるようなことした?」

「蜜柑ちゃん、そんなことはいいから早く帰ろう」

「待ってよぉ、翠ちゃん!」


 駆け出した翠を追って蜜柑も駆け出し、寮へと向かっていった。



国立夢幻学園の保健室にて。一人の養護教諭が梔子くちなし色のポニーテールを結び直し、パソコンで作業していると、一言も無しにある職員が入ってきた。


「シャ…、尚虎なおとら先生、非常勤なのに珍しいでございますね、自分から出勤なさるとは」 

「カロちゃん、大変だよ!」

「その呼び方はマズいでございます、一二三ひふみ先生と呼ぶでございます」

「相変わらず、よくその不自然な日本語で怪しまれないね…。それで、その話だけど…」


 尚虎と呼ばれた女性は、自身の耳にかかった鈍色の髪を払い、一二三と名乗る女性に耳打ちした。


「我らの主が、この地に再臨したんだよ!」

「それは…。博美ひろみ先生とつかさ先生には報告したでございますか?」

「まだ。職員玄関から保健室が一番近いでしょ?」

「逆によくこの時間に来ようと思ったでございますね」


 まもなくして、怪しい女性教師四人はとある人物について話し始めた。

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