【第1章 改稿中】なかまたちの世界謳歌放浪~巻き込まれたから世界救ってみた~

松浜神ヰ(KaMUI a.k.a. gl

プロローグ

「La La La…」


 ただひたすらに暗闇、全てが無に帰した空間に響く歌声。美しく、儚げな歌声。

 声の主と思われる少女は、武装がひどく傷つき、中に着た芸術的な刺繍の施されたドレスには血が染みている。


「誰に、しようかな?」


 黒と群青の混ざった髪を少し触り、目の前に映し出された人々の歩むはずの未来を見比べる。

 ありきたりな生活を送る人。両親を殺し、悪びれもしない人。想い人の為に奮闘する人―。

 どれも、争いと厄災にまみれた世界で戦い過ごしてきた少女にとっては幻想に過ぎなかった。

 ふと、一人の少女が目に留まる。自分に似た青に近い髪色。同じくセミショートの髪型。

 目に映る少女は15歳でテロに巻き込まれ、死亡する。

 しかし、それはただ巻き込まれるのではなく、無謀にも立ち向かって死亡したのだ。

 少女は考えた。もし、この力を彼女に継承すれば、彼女はテロに立ち向かっても生きていられるのではないか、と。

 そんなことが確約できるような能力ではない。少なくとも、少女の知る限りは。


 少女にはかつて、妹がいた。世界を襲った厄災に奪われた命に咽び泣いたあの日の感情を思い出す。

 親に教えられる前に、秘匿されていた自分の力を自分で理解していながらにして、妹を守るだけの力を目覚めさせていなかったあの日。他の大勢だけでも救ってみせると誓ったあの日。

 4年の月日がかかったが、誓ったように世界へ平穏を取り戻したはずだった。

 しかし今、厄災を祓った代償として空間が崩壊し、自分以外が消滅したのかどうかすら分からない状態になっている。

 崩壊した空間に穴を開け、黒髪と栗毛色の髪の少女が飛び出して来たが、途端、栗毛色の髪の少女は驚きを隠せない様子だ。


「あれ、空間壊れちゃったの?もしかして、アイツとやり合って?」


 「…そう。けど、これは私の責任。私がもっと強ければ…」

「前の子も言ってたよ、それ。まあ、前の子と比べモノにならないけどね」

「ちょっと、サヤ。少しは言葉を選びなさい」

「ごめんごめん、オーロル」


 サヤ、オーロルと呼び合った少女二人は、一人俯く少女を見つめる。


「もしかしなくても、継承者の選別?」

「サヤ、あなたは私に力を継承させた人のことを知ってたの?」

「まあ、知ってた。君によく似た、正義感溢れる年頃の女の子。君よりは、天真爛漫って感じだったけど」


 少女サヤは、置き場のないはずの空間にベンチを生み出し、腰掛ける。


「世界を守ることも達成できなかったこんな私に、継承者を選別する権利はあるの?」

「空間を作った側から言わせてもらうと、他の空間への侵攻を食い止めてくれただけ感謝してもし切れないよ。オーロルはどう思う?」

わたくしとしては、あなたの姿を何回も見てきたので、いえ、数回しか見ていないので、こう言ったら怒るかもしれませんけど、とても頑張ったあなたには、選別する権利はあると思います。いえ、あります」


 数秒、三人とベンチ以外何も存在していない空間に沈黙が生まれる。

 少女は大きな溜め息を一つき、目の前の映像の少女に手を伸ばす。


「やっぱり、この力はあなたあげる。だから、私の分まで世界を救って」


 空間は眩い光に包まれ始め、少女も消滅し始める。


「それじゃあ、私たちは別のところに行くから。またいつか、会えるといいね」

「今度こそ、世界を救う。そしたら、会おう」

「うん」


 少女と〈時空の創造主〉は別れを告げ、消えていった。


「サヤ、こんな別れ方でよかったんですか?もっと伝えるべきことがあったんじゃないですか?」

「〈空間の創造主〉たる私とて、あんな不安定な場所にずっといたら危ないからね。それに、空間の完全な崩壊を遅らせてくれたのはオーロルでしょ?」

「やっぱりバレてましたか」


 〈時空の創造者〉は、話しながら【時空の回廊】を泳いで別の世界へと移動し始めた。

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