沖浦数葉の冒険 ―グレイト・ライフ・オンライン―

広瀬涼太

プロローグ 嶋幻也の独白

 沖浦おきうら数葉かずは


 俺と同じ榎ヶ丘えのきがおか高校の2年生で、クラスは違うが同じ『理数部りすうぶ』の部員だ。


 昨年、高一の一学期も終りに近くなって、突如学校の都合で部活動の統廃合なんてものが実施された。そして、もともと人数の少なかった俺の所属していた生物部、そして数学、物理、化学、地学の各部が『理数部りすうぶ』なんていう部に統合された。

 沖浦さんのいた数学部は、数学の研究だけでなくパソコンも扱う、いわゆる電子計算機部的な側面も持っていた。

 そしてその後、無茶な統廃合に嫌気が差したのか、増えたはずの部員たちのほとんどが幽霊部員と化し、理数部は実質二人だけの部活動となった。


 統廃合前は、小学生の頃のいじめが原因で女子と普通に接することができなくなった俺も、生物部は女子がいないから気楽でいいなどと考えていた。

 だが、急に予想外のところから女子が同じ部に入り、対応に戸惑ったのを覚えている。

 正直、女性恐怖症の男子生物部員と、虫が苦手な女子数学部員は相性が悪いとしか言いようがなかったはずだ。


 だが彼女には、理数部結成直後から色々と絡まれるようになった。特に、学年のテストの成績で俺たちはよくベストテン入りを争っていて、それでライバル視されたようだ。


 正直、あまり近寄られると汗が止まらなくなったり、何度か過呼吸を起こして倒れかけたりもしたが。

 とはいえ、恋愛や結婚はともかくとして、今後社会に出る以上、女性を相手にしないわけにはいかない。

 男子校ではなく共学を選んだのも、一応女子に慣れるためという目的があった。

 それに彼女を利用するのは、いささか気が引けたが。


 そして、高校二年のあの夏休み。


 一学期の期末テストの成績で沖浦さんに負けた結果、ゲーム開発会社での彼女のアルバイトに付き合うことになった。

 もちろん俺にもバイト料は出るし、ゲームは嫌いではない。

 それに、世に出始めたばかりのVRヴァーチャルリアリティにも興味があった。


 結果として、あの夏休みの出来事をきっかけに、俺の人生は大きく変わることになった。


 だからあの借り、いや、恩をいつか、数葉には返さなければならない。

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