絶望の果てに君に出会えた

有原優

第1話 自殺未遂

 何も面白くない日常。

 ただ、毎日学校に行って、くだらない先生のつまらない授業を聞く日々。

 学校は行きたいわけじゃない、ただ、学生の義務だから行くだけだ。


「はあ」


 ため息をつく。友達はいない、必要がない。友達……人といても疲れるだけだ。そんなこと、陽キャ共を見てたらわかる。あの人たちはどうしても楽しそうには見えない。むしろ、無駄なおしゃべりで時間をロスしてる気がする。そんなことをするくらいなら休み時間に漫画でも読んでる方が有意義だろう。


 だがそれが私の強がりということは私が一番分かっている。これは所詮友達がいないことに対する言い訳だと。


 家でもそれは同じだ。常に不機嫌な母親の機嫌を取ったり、怒りやすい父親の地雷を踏まないように気をつけたり。

 それなのに父親はいつも怒って、私を殴る。そんな日々はうんざりだ。



 そんなことを考えていると、授業が始まった。授業の内容はよく分からない小説のよくわからない解説だ。本当に面白くない、漫画の方が絶対に面白いだろう。

 小説なんてラノベは自分の妄想の垂れ流しだし、こういう太宰治や芥川龍之介の小説なんて、ただカッコ良さそうに書いてるだけだろう。

 はあ、本当にこんなもの人生に何の役に立つのか。勉強なんて、しても無駄だ。

 しかも私は女だ。どうせ主婦になれば頭のよさなんてほとんど無駄になるのに。


 そんな授業が終わり、昼休みになった。

「えーまじでー」「それな、ウケるー」「お前さ、授業中寝てたよな」「あのキャラマジで強いよな」「あのYouTuber面白いよな」「昨日のアニメ見た?」「昨日の番組見た?」「昨日の野球の試合良かったよなあ」「授業おもんねえなあ」「SNSでなこの前」「うわ、この小説家また炎上してるじゃん」


 そんなしゃべり声が、私の耳に入ってくる。防ごうとしても耳というものは自然に周りの音を拾ってしまう。シャットできないのだ。


 ああ、うんざりだ。こんな大声でする話ではないだろう。私に対する当てつけか? もうこんな空間にいられない。今日も昼ごはんは屋上で食べようと思い、教室をこっそりと抜け出す。


 屋上は広いし静かだ。しかも街の景色が一望できる。


 ここでは何も私を阻害する存在などいない。一番のお気に入りスポットだ。

 ここでご飯を食べると少しだけ気分が晴れやかになる。

 お父さんに殴られた頬の痛み、お母さんにストレスの捌け口にされたもやもや、クラスの陽キャのうるささ、誰にも打ち上げられない悩み。

 そんなものが晴れていく。



 この景色の前ではすべてがどうでもよくなる。



 あくまで一時的にだが。


 そして、ご飯を食べ終わり、午後のつまらない授業に出た。

 午後の授業は先生が風邪を引いたらしく、自習だった。


 私みたいな陰キャにとってこの時間が思い切り辛い。陽キャたちは「やったー自習だーー!」などと喜んでいるが、こいつらは所詮喋ってるだけだ。そんなもの家でもできるだろと言いたい。

 そしてそんな苦痛な時間に耐えながら、プリントを解く。

 向こうで「鳩、お前のやつ手伝ってやろうか」なんて言ってる人がいるが、自分で解いた方が力になるだろう。他人にやってもらうなんて馬鹿な事……やめた方がいいと思う。


 そして苦痛な授業が終わった。周りの人が騒いでいる中、こっそりと人の群れを通り抜け、学校から出る。


 そして家に帰ると、


「おう、帰ってきたか」


 と、お父さんに言われた。ああ最悪だ、今日もお父さんが仕事が終わって家にいる。今日も地獄になりそうだ。


 この父親こそ諸悪の根源そのものだ。何かあるたびに暴力に訴えるクズ父親。こいつの顔を見るたびに吐きそうになる。こいつさえいなかったら私の生活は安定していたはずなのだ。


「ただいまは?」

「ただいま」

「ただいまお父さんだろ!」


 叩かれた。


「俺はお前のために毎日汗水垂らしながら働いてるんだ。ちゃんとその意味を考えろ。そういう意味で言えば、いつもありがとうを付け加えてもらうべきだったな」

「毎日私のために働いてくれてありがとう」


 正直言いたくない。でも言わなかったらどうなるか、私はちゃんと分かっている。嫌でも言い切るしかない。お世辞でも何でも。


「それでいいんだ。あと、肩揉んでくれよ。疲れたからさ」

「分かった」

「もっと笑顔で言わんかい!」


 叩かれる!?


「まったく」


 ああ、叩かれなかった。運がいい。

 そして肩を揉む。疲れてるいのは正直私も同じだ。自分だけ特別扱いしないで欲しい。でもまあ、この人に何を言っても変わらないだろうな。


 親ガチャ当たっていたらな……そんな事を毎日考える。親ガチャって言うな、与えられた環境で頑張れと言う人もいるが、この状況でどうして、頑張れようか。

 親ガチャ反対の人たちは所詮親ガチャ当たり組だ。外れ組の気持ちなど分かるわけがないのだ。


 そんなことを考えていたら精神を病んでしまうなと思い、脳内で無理やり楽しい妄想をする。例えば、漫画の妄想とかだ。こんなことを考えたところで、気分が完全に晴れるなんて馬鹿なことはないのだが。


 はあ、嫌だ。こんな毎日。こんなクソ親父に媚を売らなきゃならないなんて。


 とはいえ、手抜きなんてできない。手抜きなんてしたらまた叩かれる。ああ泣きたい。泣きたいよ私は。

 こんな日々を毎日過ごさなきゃならないなんて、こんな地獄は他にはないよ。


 そして肩揉みから解放されて、部屋に行く。だが、部屋に行っても何もする気が起きない。だるすぎてもう寝たい。ああ、こうして私の人生は無垢に過ぎていくんだな。


 疲れたのでご飯の時間まで寝ようとしたが、明日までの宿題が出ていた事を思い出し、教科書を開く。数学の練習問題を解かなければならないのだ。後回しにするのも億劫なので、今やる。

 問題は難しく、解けるのか? と思うレベルの問題だ。正直勉強があまり得意ではない私には解く自信がない。


 勉強が終わり、下へと降りる。やはり合ってる自信がない。もう少し勉強出来たらなあ。

 そしてご飯を食べる。お父さんと一緒なせいで全く味がしない。常にお父さんに対してビクビクしなければならないのだ。

 本当に何が原因でキレるか分からないのだ。

 ビビりながら食べるご飯は本当に美味しくない。


 そして美味しくないご飯を食べ終わった後、ベッドに潜り、スマホを触る。が、全く楽しくない。

 疲れているからかなと思い、眠る。


 だがたまにお父さんが無理やり起こしてきて、無茶ぶりするときもあるから、そこが怖い。だが、今日は運のいいことに安眠出来たようだ。

 どうやら今日はお父さんの機嫌がよかったようだ。


 そして翌日学校に向かう。つまらない授業を聞きに。

 だるいし、しんどい。でも、学生だから行かなくてはならない。

 いつも学校が近づくと、気分がさらに落ち込む。


 周りの声が大きくなるからだ。


 本当に一人での登下校はしんどい。だけど、友達が出来ないのだから仕方がない。

 数学の授業が始まった。


「鈴村この問題を解いてみろ」


 早速私が当てられた。

 昨日宿題をやっていてよかった。

 そして自信満々に「三i+二です」と答えた。よし、これで私の仕事は終わりだ! と思い、ふうと、胸を撫で下ろし、椅子に座ろうとした時、


「違いますね」


 と、先生に言われた。自信はなかったが、本当に違うかったらしい。


 ショックだ。

 これで昨日宿題やったのは無駄となった。


 しかも、「これは基本問題だし、ちゃんとできるようにしてください」などと怒られて最悪な気分だ。

 そして、終わった後、私は鬱な気持ちになった。

 本当にこんな毎日いつまで続くんだろうか。家でも学校で明るい気持ちになることはないこの日々が。


 そして昼休み、私は弁当を食べずに屋上の柵にもたれかかった。はあ、しんどい。

 そう言えばお母さん前に言っていたな、あなたがいなかったら、もっと楽に離婚できるって。そもそも私の存在意義は何なのだろう。


 私が死んでもお父さんは悲しまないだろうな。

 お母さんは? 軽くは悲しむだろうけど、離婚出来てハッピーだろう。


 それに私は勉強もできないし、人付き合いも上手くない。私にはいわゆる価値がない。そしてこれから私が社会で貢献できる自信もない。あのお父さんにいつまでも愛想笑い出来る自信もない。

 そう考えたら私っていったい何なのだろう。

 私はいつまでこんなくだらない生活を続けるんだろう。正直何も楽しくない。こんな感じだったらいっそ……

 そんなことを考えたら本当に辛くなった。


 そしてついに私は無意識に落下防止の柵を渡った。

 ああ、幸せになりたかった。でも、飛び込んだら幸せになれる。


 そう信じて私は屋上から飛び降り……た?


 しかし、私は柵から落ちてはいなかった。


「おい! 危ないだろ!!!」


 次の瞬間声をかけられ、腕をつかまれ、飛び降りを阻止されたからだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る